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E U 国 際 私 法 の 概 要 Pic


目 次


 はじめに
  
  I. アムステルダム条約発効前のEU抵触法
 
 II. アムステルダム条約発効後のEU抵触法

   1.EUの権限

   2. 立法手続

   3. イギリス、アイルランドおよびデンマークに関する特例

   4. EU第2次法
         (1) Rome I 規則
         (2) Rome II 規則
         (3) Rome III 規則

 III. ECJの判例法(基本的自由について)
  
 おわりに




4. EU第2次法(Rome I〜III規則等)


 4.1. 総論
 4.2. 各論
 (1) Rome I 規則
 (2) Rome II 規則
 (3) Rome III 規則



4.2. 各論

(1) Rome I規則

 1980年6月、当時のEEC加盟国は、「契約債務の準拠法に関する国際協定」(ローマ条約) を締結しているが、「契約債務の準拠法に関する規則」(Rome I規則) はこの条約に代わるものである(Rome I規則第24条第1項参照)。つまり、アムステルダム条約に基づき、EUには加盟国で適用されている抵触法を統一する権限が明瞭に与えられるようになったため、ローマ条約をEU独自の法令に置き換える作業が行われた。なお、Rome I規則はローマ条約の構成や原則を踏襲しているが、内容的には多くの規定で違いがみられる。

 Rome I規則は、2008年6月17日、欧州議会とEU理事会によって共同で制定され、同年7月24日に発効しているが(第29条第1項)、2009年12月18日以降 に締結された契約には、ローマ条約ではなく、同規則が適用される(第28条)。ただし、デンマークは同規則の制定・採択に参加していないため、同国では、従来通り、ローマ条約が適用される。これに対し、アイルランドでは適用される。イギリスも立法手続には参加していたが、採択には加わらなかった。これは、特に、"overriding mandatory provisions/Eingriffsnormen"(第3国の強行規定)の適用に関する欧州委員会案に賛成しなかったためであるが 、法案が採択された後、受け入れを表明している (これらの国に関する特例について)。

 Rome I規則の適用範囲は民事および商事に関する契約債務関係に限定され、租税・関税事件および行政事件には適用されない(第1条第1項)。なお、商事に関する案件であれ、会社法やその他の団体・法人に関する法令で定められている事項(法人の設立、登録、法人格、行為能力、内部組織など)には適用されない(第2条第f号)。また、契約締結上の過失責任については適用されないが(第i号)、これは後述する Rome II規則 の対象である 。


@ 当事者による準拠法の選択

 Rome I規則は当事者による準拠法の選択を広く認める。なお、合意は明瞭になされているか、または契約条項ないし事案の状況から十分、的確に読み取れるようでなければならない(第3条第1項)。

 準拠法の選択時、事案に関するその他の全ての事項が一つの国にのみ関係しているときは、外国法が準拠法に指定されている場合であれ、その国の強行法規が適用される(第3項)。また、事案がもっぱらEU域内に関わるとき、第3国法を準拠法に指定することによって、EU法上の強行法規 の適用を排除することができない(第4項)。

 当事者が準拠法を選択していない場合について、ローマ条約は最密接関係地法によるとし(第4条第1項)、特徴的な給付を行う者の常居所地が最密接関係地にあたると推定していたが(第2項)、Rome I規則は、個々の契約ごとに定めている。例えば、商品(動産)の売買契約については、売主の常居所地国法(第4条第1項第a号)、また、サービス提供にかかる契約については、提供者の常居所地国法とする(第b号)。Rome I規則第4条第1項は、その他の契約についても定めているが 、そのいずれにも該当しないか、複数の類型に該当する契約は、特徴的な給付を行う者の常居所地国法が準拠法となる(第4条第2項)。なお、第1項および第2項が指定する国の法よりも、明らかに より密接に関係する国があるときは、その国の法による(第3項)。

A 輸送契約

 商品輸送契約の準拠法が選択されてない場合については特例が設けられており、輸送者の常居所がある国の法による。ただし、その国に輸送品の受領地または引渡地か、発送者の常居所がある場合に限る。これらの要件が満たされないときは、当事者間で合意された引渡地がある国の法による(第5条第1項)。

 人の輸送契約については、当事者が選択しうる準拠法が限定されており、輸送者の常居所または主たる事務所がある国の法、乗客の常居所地国法、出発地または到着地の法でなければならない(第5条第2項第2款)。準拠法が選択されていないときは、乗客の常居所地国法によるが、これはその国が出発地または到着地である場合に限る(第5条第2項第1款前段)。そうでないときは、輸送人の常居所地国法による(後段)。

B 保険契約

 保険契約の準拠法についても選択が認められているが(第7条)、ある特定の保険契約については制限が設けられている(第7条第3項)。なお、従来、保険契約の準拠法は、個々の指令の中で付随的に定められてきたが、Rome I規則第7条が優先して適用される(第23条)。

C 消費者契約 

 保険契約輸送契約 を除く消費者契約についても特例が設けられているが、Rome I規則は、その他の契約のように、まず当事者による準拠法の選択について定めるのではなく、消費者の常居所地国法によるとする(第6条第1項) 。ただし、事業者の職業または商行為が消費者の常居所地国で行われているか、何らかの方法によりその国またはその国を含む複数の国に向けられていること、かつ、契約が事業者のそのような行為の範囲内にある場合に限る。なお、Rome I規則は当事者による準拠法の選択を認めていないわけではない(第6条第2項)。選択されていない場合には、第6条第1項による。なお、準拠法を選択することにより、消費者の常居所地国(つまり、第6条第1項が定める準拠法)の消費者保護強行規定の適用を排除することはできない。

D 個別雇用契約

 個別雇用契約(Individual employment contracts)についても、当事者による準拠法の選択が認められるが、通常の労務提供地(それを確定しえないときは採用地)の強行法の適用を排除することは許されない(第8条第1項)。準拠法が選択されていないときは、通常の労務提供地、それを確定しえないときは採用地の法による(第2項)。

E 契約の成立、有効性および形式

 なお、契約の成立と有効性は、契約が有効であれば準拠法に指定される法による(第10条第1項)。契約の形式は、契約締結地法か効力の準拠法による(第11条第1項)。遠隔地的契約の形式は効力の準拠法、または、契約締結時における当事者の一方の滞在地か常居所地の法による(第2項)。

 


参考文献については、『平成国際大学社会・情報科学研究所論集』第11号に掲載されている拙稿を参照して下さい。