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E U 国 際 私 法 の 概 要 Pic


目 次


 はじめに
  
  I. アムステルダム条約発効前のEU抵触法
 
 II. アムステルダム条約発効後のEU抵触法

   1.EUの権限

   2. 立法手続

   3. イギリス、アイルランドおよびデンマークに関する特例

   4. EU第2次法
         (1) Rome I 規則
         (2) Rome II 規則
         (3) Rome III 規則

 III. ECJの判例法(基本的自由について)
  
 おわりに




4. EU第2次法(Rome I〜III規則等)


 4.1. 総論
 4.2. 各論
 (1) Rome I 規則
 (2) Rome II 規則
 (3) Rome III 規則



(2) Rome II規則

 2007年7月11日、欧州議会とEU理事会は共同で「契約外債務関係の準拠法に関する規則」(Rome II規則) を制定し、同規則は2009年1月11日より施行されている(第32条、ただし、第29条は制定時より適用されている)。また、同規則は、この施行日以降に発生した渉外事件に適用される(第31条)。なお、アイルランドとイギリスは立法手続の段階から参加し、採択にも加わっているため(前文第39立法理由)、Rome II規則は両国でも効力を有する。他方、デンマークは参加していない(これらの国に関する特例について)。

 Rome II規則は、不法行為、不当利得、事務管理、契約締結上の過失責任(Culpa in contrahendo)について定めているが、重点は不法行為に置かれている。なお、私的空間や人格権の侵害および名誉棄損に基づく債権については見解がまとまらず、規則の適用範囲から除外されることになったが(第1条第2項第g号)、欧州委員会は、遅くとも2008年12月末までに、報告書を提出することとなった(第30条第2項)。同報告書は2009年2月に提出されているが (参照)、委員会の提案は一つに絞られていない。

 また、Rome II規則は民事および商事に関する契約外債務関係にのみ適用され、租税・関税事件、行政事件または公権力の行使を伴う国の行為ないし不作為に関する責任には適用されない(第1条第1項)。


@ 不法行為

 不法行為に基づく債務関係は結果発生地法によるが(第4条第1項)、被害者と加害者が結果発生時、同一国内に常居所を持つ場合は、同国の法による(第2項)。ただし、結果発生地国や両当事者の常居所地国よりも、明らかに密接に関係する国があるときは、その国の法による(第3項)。

 なお、不法行為の特例として、@製造物責任(第5条)、A不正競争または違法な取引制限に関する責任(第6条)、B環境汚染責任(第7条)、C知的所有権の侵害に関する責任(第8条)、D違法な労働闘争に関する責任(第9条)について規定が設けられている。

A 不当利得

 不当利得に基づく債務関係は、不当利得が当事者間の契約または不法行為などより生じている場合は、当該契約または不法行為の準拠法による(第10条第1項)。このような法が特定されない場合において、両当事者が同一国内に常居所を持つときは、その国の法による(第2項)。第1項および第2項によって準拠法が定まらないときは、不当利得発生地の法による(第3項)。なお、第1項〜第3項が指定する準拠法国よりも、不当利得に明らかに密接に関係する国があるときは、その国の法による(第4項)。

B 事務管理

 事務管理に基づく債務関係の準拠法は、不当利得(第10条)の場合と同じ方法で指定される(第11条)。

C 契約締結上の過失責任

 契約締結上の過失責任(culpa in contrahendo)は、契約外債務(法定債務)として性質づけられているが、準拠法は契約債務(任意債務)に準じる。つまり、契約締結上の過失責任は、そのような過失があったにもかかわらず成立した契約または過失がなければ締結されていたであろう契約の準拠法による(第12条第1項)。第1項に従い準拠法が決まらないときは、不法行為(第4条)の場合と同じ方法による(第12条第2項)。

D 当事者による準拠法の選択

上述したように、Rome II規則は、原則として、個々の法律関係に最も密接に関係する地を連結点とし準拠法を指定しているが 、一定の条件の下、両当事者による準拠法の選択を認める(第14条第1項)。ただし、不正競争または違法な取引制限に関する責任や、知的所有権の侵害に関する責任については、準拠法の選択を認めない(第6条第4項、第8条第3項)。また、原因事実発生時、事案の全ての要素がその他の単一の国(準拠法国ではない、その他の国)に関係しているときは、その国の強行法規の適用を免れない(第14条第2項)。また、原因事実発生時、事案の全ての要素が単一ないし複数のEU加盟国に関係しているときは、EU強行法規の適用を免れない(第3項)。
 




参考文献については、『平成国際大学社会・情報科学研究所論集』第11号に掲載されている拙稿を参照して下さい。