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リ ス ボ ン 戦 略 − 欧 州 委 員 会 の 新 提 案



 リスボン戦略 が採択されてから5年が経過しようとしているが、目標の達成度は低い(参照)。戦略に新風を吹き込むため、欧州委員会は、2005年2月2日、新しい行動計画(案)を発表した。2010年までに世界中で最も競争力のある経済地域に発展させるという野心的な目標は鳴りをひそめ、実現可能な項目(@年率3%の経済成長と、A600万の雇用創出)に的をしぼっているが、その主な内容は以下の通りである。

・  

経済成長の実現に貢献しうる分野の市場統合を完成させること
サービス、エネルギー、公共調達、金融分野で合意を取りまとめ、また、化学物質に関するEUの法規について見直すこと

・  

国内助成を飛躍的な成長の可能性のある分野に集中すること
中小企業に有利な環境を整えること

・  

EU内のインフラの構築・整備

・  

EC特許制度の整備

・  

研究・開発への投資をGDPの3%に引き上げること  
投資を促進するため、特に、経済成長と雇用創出に効果のある分野(情報技術、バイオテクノロジー)を集中的に強化すること

・  

社会モデルを刷新することによって、雇用率を高めること
特に、若年労働者の失業率を改善すること


 6点目の社会モデルの刷新(現代化)について、欧州委員会は、2月9日、新しい行動計画を発表しているが、雇用の促進、貧困の撲滅、機会均等の奨励が優先課題とされている参照



 欧州委員会によれば、人的資源への投資は、GDPを0.3%押し上げる効果がある。また、研究・開発にGDPの1%分投資すれば、1.7%の経済成長が見込まれるとされる。さらに、テレコミュニケーション市場やエネルギー市場の完全な自由化は、GDPを0.6%引き上げるとされる。




 リスボン戦略の実現には、加盟国の徹底した取り組みが必要であり、国内制度改革の一部に組み入れて検討すべきであること、また、EUの指針にのっとり、加盟国は計画を実施しなければならないとされる。

 2月2日の提案について、Barroso 欧州委員長 は、豊かさを維持する上でも経済成長は不可欠であり、新しい戦略(案)は恒常的な経済成長をもたらすと述べている。また、Verheugen 欧州委員 (欧州委員会副委員長)は、今度こそ我々は結束して、EU市民の最大の関心事である雇用の創出に取り組まなければならないと付け足している(参照)。


 なお、2001年6月には、恒常的発展に関するEU戦略 が採択されているが、これは、気候の変化や南北間の経済問題(貧富の格差の解消)など、Lisbon 戦略よりも、より包括的な行動計画となっている。もっとも、人々の生活条件や豊かさを恒常的に改善するという点で、両者の目標は同一である。2005年2月9日、欧州委員会は、前者の実施状況と今後の課題についてまとめた報告書を採択したが、その中では、気候の変化、公衆衛生(人々の健康に関する問題)、交通、土地・天然資源の利用、高齢化、貧困や社会的断絶など、恒常的な発展を妨げうる諸問題が挙げられている。2005年末までには、さらなる報告書が提出され、EU理事会と欧州議会によって検討される予定であるが、4月14・15日には、欧州経済・社会部会 の主催による会議も開催される参照



(参照)

在独欧州委員会代表部の公式サイト@ A B

Barroso 欧州委員長の欧州議会における演説(2005年1月26日)


欧州委員会の新行動計画(2005年7月) New


      

(2005年2月10日記 2月16日更新)