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EC法秩序におけるWTO紛争解決機関(DSB)の勧告の効力


II. DSBの勧告の直接的効力 

WTO諸協定ではなく、ECの措置はWTO諸協定に違反するとするDSBの判断を指摘し、個人が提訴することは認められるかどうかは、DSBの判断(裁定ないし勧告)の直接的効力として扱われている。従来より、バナナ市場規則ホルモン剤を投与された牛肉の輸入禁止措置の適法性は、EC内でも激しく争われているが、これらの第2次法はWTO諸協定に反するとするDSBの判断が下されると、これを援用し、第2次法の適法性を争う訴えがEC裁判所ないし第1審裁判所に提起されるようになった。当初、EC裁判所は、@控訴審手続において初めて小委員会(パネル)の判断を指摘することは遅きに失するとして、上掲の問題について見解を示さなかったり(Atlanta判決)、ADSBの判断を考慮せずに訴えを棄却していた(OGT決定)。

 

他方、第1審裁判所は、WTO諸協定の直接的効力が否認される以上、DSBの勧告も直接的効力を有さないと判示したことがあるが、その控訴審であるEC裁判所は、BDSBの勧告がWTO法の直接的効力の欠缺にどのような影響を及ぼすか検討すべきであると述べ、DSBの勧告の直接的効力をまっこうから否認することを批判した。なお、その際、EC裁判所は自らの見解を明確に示していないが、WTO諸協定(第1次法)が直接的効力に欠けることを根拠に、DSBの勧告(第2次法)の直接的効力をも否定することに懐疑的であることが読み取れる。これは同時に、Nakajima判決理論 Fediol判決理論の要件が満たされる場合にのみ、司法審査は行われるとする従来の判例法理が(完全に)支持しえないことを意味している。しかし、Van Parys判決において、EC裁判所は、勧告の実施期間後であれ、WTO加盟国には交渉権限が与えられているとの理由に基づき、個人がDSBの勧告を援用し、提訴することを認めていない。それゆえ、判例法の一貫性は保たれることになったが、勧告に基づく司法審査が行われないことの当然の結果として支持しうる。

 

Van Parys判決において、EC裁判所は、行政・立法機関の交渉権限ないし裁量権を重んじ、司法審査を回避しているが、WTO諸協定やDSBの勧告の法的効力を否認するものではない。DSBの勧告は、WTO諸協定の実施に関する加盟国の裁量権(交渉権限)を制約すると捉えるならば、その勧告に照らし、司法審査を実施すべきであると解されるが、このような理論を展開するAlber法務官に対しては、裁判規範性に欠けるとされるWTO諸協定が、DSBの判断が下された後は、なにゆえに司法審査の基準になりうるのかが明らかにされていないと批判されている。また、DSBの判断(WTO2次法)にWTO諸協定(第1次法)よりも強力な効力を与えることは理論的に説明しがたいとされるが、これはWTO諸協定の裁判規範性が否定される理由を正しく理解していない。また、DSBの勧告の効力は、紛争解決了解(DSU)、すなわち、WTO1次法に根拠を有することを考慮すると、より実効的な効力が与えられているとしても問題はない。EC裁判所も疑問視していないと解される。

 

 なお、勧告がWTO加盟国内においてどのような効力を有するのか、DSBは定めていない。そのため、DSBの勧告(ないし、より包括的にWTO諸協定そのもの)の法的拘束力を疑問視する立場もあるが、実際に、どの程度、勧告の実施を徹底しうるかどうかはさておき、その法的効力そのものを否定することは、国際法の法規範性を否認することになり、妥当ではない。前述したように、DSBの勧告の実施に代わる措置を認める場合であれ、勧告の法的効力そのものを否認するものではない。それを否認し、勧告に従わなくともよいとすると、代替措置を講じる必要性もなくなる。否認されるのは勧告の実施義務そのものではなく、適切な期間内に勧告を実施しなければならない義務(DSU21条)である。WTOのメンバーとして、また、国際法の主体として、ECは、WTO諸協定(DSUを含む)やその機関の判断に従わなければならないが(EC条約第300条参照)、EC裁判所も勧告の法的効力を否定するものではない。また、同裁判所が上級委員会や小委員会(パネル)の条文解釈を参照することも少なくない。

 


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本稿は、平成平成国際大学法政学会編『平成法政研究』第10巻第2号(2006年3月刊行予定)に掲載予定の拙稿「EC法秩序におけるWTO紛争解決機関(DSB)の勧告の効力」に大きく依拠している。ホームページ上では脚注はすべて削除してあるため、前掲雑誌所収の拙稿を参照されたい。




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