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EC法秩序におけるWTO紛争解決機関(DSB)の勧告の効力


III. DSBの勧告の実施を怠ったことより生じた損害の賠償責任

 前述したようにWTO諸協定は裁判規範性や直接的効力に欠け、また、DSBの勧告も直接的効力に欠けるため、個人は、EC法が国際貿易協定に反することを理由に、その適法性を争うことはできない 。他方、それに代わる権利保護手段として、個人は、ECによるWTO諸協定違反から生じた損害の賠償をECに請求することは認められるであろうか(EC条約第288条第2項)。

 DSBによって、EC2次法は WTO諸協定に違反することが確定され、是正が勧告されるも、実施期間内に適切な措置が取られない場合、@第2次法によるWTO法違反状態が継続するだけではなく、ADSBの判断の実施義務違反という新たな違法行為が生じる。Biret判決において、EC裁判所は、この2つのWTO法違反を明確に区別していないが、損害賠償の範囲は、Aに限定されることが判旨より読み取れる。つまり、DSB の勧告や決定を実施すべき期間が経過しても、まだ完全に実施されていないことより生じる損害についてのみ、ECは賠償しなければならないと解される。逆に、従来から存する WTO法違反の責任を追及するために、DSBの判断を援用することは認められないであろう。

 なお、DSB の勧告の実施期間が経過した後に発生する損害には、@ EC2次法の適用から直接的に生じるものの他に(つまり、継続する貿易規制より生じる損害)、A ECDSBの判断を実施しないことに対し、WTO加盟国が制裁を発動したために生じた損害も含まれる。判決において、EC裁判所は、前者(@)についてのみ検討しているが、DSB の勧告や決定に従わなければならない義務が重視されている。その不履行が違法と解されれば、Aの賠償義務も肯定されよう。

 従来の判例法によれば、損害賠償は、原則として、損害が違法行為に基づいている場合にのみ認められる。したがって、訴えの対象である第2次法は違法とみなされなければならない。しかし、前述したように、事後の判決においてEC裁判所は、DSB の判断の実施期間が経過した後であれ、EC2次法とWTO法の整合性を審査してはならないと判断しているため、損害賠償が認められることはないであろう。

 

  (参照) WTO諸協定違反より生じた損害の賠償請求



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本稿は、平成平成国際大学法政学会編『平成法政研究』第10巻第2号(2006年3月刊行予定)に掲載予定の拙稿「EC法秩序におけるWTO紛争解決機関(DSB)の勧告の効力」に大きく依拠している。ホームページ上では脚注はすべて削除してあるため、前掲雑誌所収の拙稿を参照されたい。




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