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EC法秩序におけるWTO紛争解決機関(DSB)の勧告の効力


おわりに

 従来のGATTに比べ、WTO諸協定は法的に強化されているため、EC通商法の統制も強化されるとの期待が見受けられたが、EC裁判所はこれをすでに否定している。また、本稿で考察した新判決では、DSBECによるWTO諸協定違反を認定し、その是正を勧告する場合だけではなく、その実施期間が終了した後であれ、諸協定に照らしたEC法の審査を回避している。これは、立法・行政機関の交渉権限(ないし裁量権)を考慮したためであるが、この点において、WTO諸協定は従来のGATTに共通していると言えよう。国際貿易法の趣旨・目的に基づいた判断は法的に支持しうるが、立法・行政機関の裁量権を重視するならば、従来のGATTに関するNakajima判決理論の適用は否定されるべきであろう。これを行わず、新たな解釈を導入するとすれば、理解が困難になる場合も生じる。WTO諸協定の発効から10年、EC裁判所や第1審裁判所は、その効力や適用について非常に多くの判断を示してきたが、その体系化が必要な時期にさしかかっている。従来より、EC裁判所は、個々のケースが抱える特定の問題に限定して自らの見解を示しているが、判断の一貫性を保つだけではなく、新たな訴えを削減するためにも、包括的に判断する必要性も否定できない。

 

 当初、EC裁判所は、DSBの勧告はWTO諸協定が裁判規範性や直接的効力に欠けることにどのような影響を及ぼすか検討しなければならないと述べていたが、事後の判決では、その影響を否定している。しかし、それゆえに、EC裁判所は、DSBの判断(ECによるWTO諸協定違反の認定)の効力を否認したり、勧告の受け入れを拒否しているわけではない。勧告の実施がEC法の大原則に反するような場合、その受け入れを拒むことも許されるかどうかは、事後のケースで扱われることになろう。

 


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本稿は、平成平成国際大学法政学会編『平成法政研究』第10巻第2号(2006年3月刊行予定)に掲載予定の拙稿「EC法秩序におけるWTO紛争解決機関(DSB)の勧告の効力」に大きく依拠している。ホームページ上では脚注はすべて削除してあるため、前掲雑誌所収の拙稿を参照されたい。




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