1. EC法とSPS協定
1981年以降、EU理事会 は 指令(81/602, 88/146, 96/22)を制定し、特定のホルモン剤を家畜に投与することを禁止している。
まず、1981年に制定された指令第81/602号 (Council Directive 81/602/EEC of 31 July 1981, OJ 1981, L 222, p. 32)は、家畜に特定のホルモン剤を与えることや、特定のホルモン剤が投与された家畜やその肉を流通過程に置くことを禁止している(第2条)。なお、5つの物質については、後にEU理事会が決定するまで、国内法や国際協定を引き続き適用することを認めている(第5条)。これは、5つの物質の有害性について、さらなる調査が必要であるために設けられた例外である。
1985年に入り、EU理事会は新たな指令(Council Directive 85/649/EEC, OJ 1985, L 382, p.
228)を制定するが、立法手続に違反があったため、EC裁判所によって無効と宣言された(Case 68/86, UK v. Council [1988] ECR 855)。 そのため、理事会は、1988年、指令第88/146号(Council Directive 88/146/EEC of 7 March 1988, OJ 1988, L 70, p. 16)を制定している。これによって、指令第81/602号に基づく例外(前述参照)は廃止された。また、特定のホルモン剤が投与された肉や肉製品を第3国から輸入することが禁止された(第6条、理事会指令第72/462/EEC,
OJ 1972, L 302, p. 28 = English Special Edition 1972 (31 December), p.
7)。
1994年4月15日、EU理事会議長と欧州委員会の対外政策担当委員は、EUの名において、WTO諸協定に署名するが、その中には、衛生植物検疫措置の適用に関する協定(SPS協定)が含まれていた。同協定第3条第3項は、WTO加盟国が国際法規よりも厳格な衛生措置を導入することを認めているが、ただし、その必要性が学問的に裏付けられているか、または、第5条第1項ないし第8項の規定に合致していなければならない。第5条第1項によれば、WTO加盟国が実施する、人や動植物の生命・健康に対する危険性の評価は、専門国際機関によって開発された方法に基づいていなければならない。
SPS協定は、1995年元旦に発効しているが、1996年4月、EU理事会は、指令第96/22号(Council Directive 96/22/EC of 29 April 1996, OJ 1996, L 125, p. 3)を制定している。これによって、前掲の指令第81/602号と第88/146号は廃止されたが、両指令が定める特定のホルモン剤の投与禁止は、継承されることになった。
2.WTOの紛争解決機関の判断
米国とカナダは、指令第96/22号がWTO法に違反するとし、それぞれ、1996年5月と11月に、WTOの紛争解決機関に提訴している。これを受け設置された小委員会(パネル)は、1997年8月18日、指令第96/22号がSPS協定に違反することを認定する報告書(WT/DS26/R/USA
and WT/DS48/R/CAN)を提出している。ECは、これを不服として、上級委員会に申し立てを行っているが、1998年1月16日、同委員会は、小委員会の判断に若干の誤りがあることを指摘する一方で、指令第96/22号がSPS協定(第3条第3項および第5項第1項)に違反するという結論は支持した。つまり、ECが禁止するホルモン剤の人の健康を害する危険性は、十分に実証されていないとした。1998年2月13日、紛争解決機関(DSB)は、上級委員会の報告書を採択し、SPS協定に適合する評価を実施するようECに勧告した。
ECは、DSBの勧告に従う用意があることを明らかにしたが、その実施のために妥当な期間が与えられるべきであると主張したため(紛争解決了解第21条第3項)、同期間は、15ヶ月と決定された(1999年5月13日まで)。しかし、この期間内に、指令第96/22号は改正されていない。
2000年7月3日、欧州委員会は、新たに実施した研究結果に基づき、指令第96/22号が禁止する物質の内、1つの使用は継続的に禁止するが、残りの5つの物質については、新たな研究結果が得られるまで、暫定的に禁止するという指令案(2000/C
337 E/25, OJ 2000, C 337 E, p. 163)を作成するが、欧州議会とEU理事会は、これを採択していない。
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