ユーロの将来は こちら
◎経済・通貨同盟から「債務同盟」ないし「借金同盟」へ
2010年5月、EUは発足以来、最大の危機に直面している(従来の危機については こちら)。その発端は、ユーロ導入国であるギリシャが過剰な財政赤字を抱え、実質的に、国家破産に追いやられたことにある。なお、ユーロ導入国からの融資を受け、実際に破産を宣告しているわけではないが、これを契機に、EU、より厳密には、その制度の一つである「経済・通貨同盟」は「債務同盟」ないし「借金同盟」に変わった。また、EU基本条約は、ユーロ導入国が他のユーロ導入国の債務を引き受けることを禁止しているが、実質的にはこれが緊急措置として実施されており、「経済・通貨同盟」は「送金同盟」へと変わっていると捉える立場もある。
◎欧州中央銀行への信頼喪失
上述したように、現在の危機はギリシャが国家破産に相当する、過剰な財政赤字を抱えていることに基づいているが、2010年5月3日(月)以降は、欧州中央銀行に対する信頼危機に発展・拡大する。つまり、同日、同銀行の
Trichet 総裁は、従来の方針を覆し、金融機関が持つ格付けの低い国債(ギリシャ債)を担保として資金を貸し付けることを発表した。回収の可能性が低い、危険な債権をも担保として引き受けるとすることで、同行に対する信頼は揺らぐことになるが、他方、Trichet
総裁は、欧州中央銀行がギリシャ債を直接、買い取ることは否定した。これはEU法に合致しないためである。つまり、中央銀行が国債を買い取る手段として貨幣を増刷すれば、インフラ懸念が強まるが、EU法は、ユーロ導入の条件かつ重要課題として、物価の安定を上げている(参照)。しかし、ギリシャ危機を克服するためには、欧州中央銀行による直接買取が必要として、同行に対する要請が高まるが、5月6日(木)、Trichet
総裁がこれを改めて退けると、ギリシャ危機に対する懸念が強まり、ユーロは大幅に値を下げる。なお、これを引き起こしたのは、アメリカやアジアのファンドとされ、EU加盟国は、5月9日、日曜日にもかかわらず緊急の会合(EU理事会)を開き、「狼の群れ」による攻撃からユーロを防衛するための基金の創設を迅速に決定する。これは、将来の経済・金融危機に備える措置であるが、すでに危機に直面しているギリシャの支援については、7日(金)のユーロ導入国の首脳会議で了承されていた。これらの対応にも拘わらず、現在でも、ユーロ危機が継続しているのは、ギリシャの返済能力を肯定する専門家はほとんどおらず、ユーロ導入国の融資がこげつく可能性が大きいこと、また、ユーロ導入国であるポルトガル、アイルランド、スペインの財政も深刻に悪化する危険性があるためである。さらに、欧州中央銀行に対する信頼も揺らいでおり、経済・通貨同盟が失敗に終わる可能性についても真剣に議論されている。
なお、上述したように、欧州中央銀行の Trichet 総裁は、5月6日、同行がユーロ導入国の国債を直接、買い取ることはないと述べていたが、事態の悪化を考慮し、直ちに方針を変更した。また、ドイツ
Handelsblatt 紙のインタビューにおいて、総裁は、金融政策の方針を変更するものではないため、インフラ懸念には根拠がないと述べている(参照)。
◎EU法の遵守
ところで、EU法は、ユーロを安定させるため、① 安定・成長協定 を設けている。また、② 欧州中央銀行の独立性を保障するとともに(参照)、③ 同行がEU加盟国の公債を直接的に買い取ることを禁止している。また、④ ユーロ導入国が他の導入国の債務を引き受けることも認められていない。これは、ユーロ導入の条件として、財政の健全さが求められるため(参照)、導入国は他国の援助を必要としないとの考えに基づいている。しかし、現在のギリシャ危機ないし欧州中央銀行の信頼危機に際し、これらのEU法は厳格には遵守されていないか、または、柔軟に適用されている。これは経済・通貨同盟の破たんを示唆しているが、EUは、EU法の執行をより厳格にし、また、加盟国財政に対する監視を強化し、危機を克服しようとしている。
|