アムステルダム条約 に基づき新たに設けられたEC条約第65条は、民事に関する加盟国間の司法協力について定めているが、特に、以下の案件が挙げられている(限定列挙しているわけではない)。
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以下の事項の改善および簡素化
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裁判所または裁判外の機関の書類の加盟国間における送達制度
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証拠調べの協力
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民事および商事に関する裁判所または裁判外の機関の判断の承認・執行 |
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b) |
加盟国の抵触法(国際私法)や管轄権の衝突回避に関する規定の調整
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c) |
必要な場合には、加盟国の民事手続規定を調整することによって、民事手続の円滑な進展を妨げる事由の除去
(特に、裁判所へのアクセスと実効的な権利保護の調整) |
これらの事項について、EU理事会 は、EC条約第67条に従い、法令を制定しうる。もっとも、それが複数の加盟国に関わる問題について規定し、かつ、域内市場 の機能維持に必要とされる場合でなければならない(第65条)。したがって、一つの加盟国内における問題に対処するため、理事会は法令を制定することはできない。
なお、理事会の立法行為によって、加盟国は、報道や表現の自由に関する国内憲法上の規定の適用を妨げられるものではない(アムステルダム条約最終文書第20宣言)。これは、国内法に基づく仮処分の有効性を保障するための規定と解される。
第67条第5項によれば、EU理事会は、第251条(共同決定手続)の規定に基づき、法令を制定しうる。もっとも、家事事件に関する案件については、以下の手続による。
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アムステルダム条約の発効から5年以内
欧州委員会の提案、または加盟国の発議に基づき、欧州議会の意見を聞いた上で、EU理事会は全会一致で採決を行う(第67条第1項)。
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それ以降
EU理事会は、欧州委員会の提案に基づき法令を制定するが、委員会は、加盟国の要請を受け、理事会に法案を提出すべきかどうか検討しなければならない(第67条第1項)。法案提出権は、委員会にのみ与えられるという点で、これは通常の立法手続に当たる(参照)。
なお、理事会は、全会一致にて、欧州議会にも立法権限を与えることができる(第251条所定の 共同決定手続 の導入)。その際、理事会は、欧州議会の意見を聴取しなければならないが、委員会の提案に基づく必要は無い(第67条第1項)。また、同様の手続に従い、EC裁判所に権限(先行判断手続)を与えることができる(第68条参照)。
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これまでに、以下の法令が制定されている。
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民事および商事に関する裁判所および裁判外の機関の文書のEU加盟国間における送達に関する規則(Council Regulation 1348/2000)
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民事および商事事件における証拠調べにかかる加盟国裁判所間の協力に関する規則(Council Regulation No. 1206/2001)
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民事および商事に関する送達と裁判所の判断の承認・執行に関する規則(Council Regulation No. 1206/2001)("the Brussels I Regulation")
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これは、1968年9月27日のブリュッセル条約に代わる法令である。
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破産手続に関する規則(Council Regulation No. 1346/2000)
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婚姻事件および親権にかかる事件の送達と裁判所の判断の承認・執行に関する規則(Council Regulation No. 2201/2003)("the
new Brussels II Regulation")
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裁判費用助成に関する最低限の規則を定めることにより、加盟国間にまたがる紛争の裁判所へのアクセスを改善することにかかる指令(Council Directive
No. 2002/8)
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国内法への置換え期限は2004年11月30日である(指令の置換義務について、詳しくはこちら)。 |
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現在、以下の法案について審議されている。
・ EC少額訴訟事件手続の導入に関する規則案 (2005年3月15日)
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