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EC法秩序におけるWTO紛争解決機関(DSB)の勧告の効力


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 はじめに

 従来より、EC裁判所はEC法の発展に大きく貢献してきた。ルクセンブルクの関与なくして、EC法は、その特徴の一つである「実効性」を確保することができなかったと解されるが、他方、GATT/WTO諸協定の効力は著しく害されたと批判されることも少なくない。1972年のInternational Fruit Company判決以降、EC裁判所は、GATT/WTO諸協定とEC法の適合性を審査していないが、中には、ECによる条約違反が明白なケースもあった。そのため、EC裁判所は国際法違反を容認していると厳しく批判されている。

 WTO諸協定の発効後、加盟国による協定違反は、紛争解決機関(DSB)によって明確に確定されることになり、ECの責任についても、より活発に議論されるようになった。WTOの発足から10年、DSBはすでに多数のケースにおいてWTO加盟国による国際法違反を認定し、その是正を勧告している。とりわけ、ECバナナ市場規則や、ホルモン剤を投与された肉牛の輸入規制措置が諸協定に反するとする一連の判断は大きな関心を集め、初期のDSBの勧告の実効性を占う試金石とみなされてきた。もっとも、内外の圧力にもかかわらず、今日にいたるまで、ECは勧告を完全に実施していない。それゆえ、EC裁判所の介入の必要性も否定できない。しかし、同裁判所は、すでに199911月に下された Portugal v. Council 判決において、WTO諸協定は法令審査の規準にあたらないとする基本原則を示し(裁判規範性の否認)、事後の判例では、個人が諸協定違反を理由にEC法の適法性を争うことを否定してきた(直接的効力の否認)。このような判例法理にDSBの勧告がどのような影響を及ぼすかは非常に注目されたが、20039月のBiret判決(大法廷)において、EC裁判所は、DSBの勧告の実施期間中、それに照らしたEC法の審査は控えなければならないと判断した。この判決からは、勧告の実施期間が終了した後であれば、司法審査が可能ないし実施されなければならないとの結論が読み取れるとする見解も主張されているが、20053月に下された Van Parys判決(大法廷)において、EC裁判所はこの解釈を排斥している。従来より、EC裁判所はGATT/WTO諸協定の効力を著しく害していると批判されているが、前掲の判断に基づき、EC裁判所は新たな批判にさらされることになった。なお、新判決は、ECにおけるDSBの勧告の効力だけではなく、Nakajima判決理論についても再検討する必要性を提起している。本稿では、これらの問題点について考察する。





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本稿は、平成平成国際大学法政学会編『平成法政研究』第10巻第2号(2006年3月刊行予定)に掲載予定の拙稿「EC法秩序におけるWTO紛争解決機関(DSB)の勧告の効力」に大きく依拠している。ホームページ上では脚注はすべて削除してあるため、前掲雑誌所収の拙稿を参照されたい。




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