親 子 間 の 法 律 関 係


1. 準拠法の決定

 当初、法例第20条 は、親子間の法律関係は、父の本国法による(父がいないときは、母の本国法による)と定めていたが、@ 両性の平等や、A 子の福祉を考慮して準拠法が決定されるべきであるとの理念に基づき、父または母の本国法と子の本国法が同一であるときは、それによると改められた。つまり、父だけではなく、母の本国法も考慮される他、子の本国法が重視されている。現行法である適用通則法第32条も同様である。なお、父母の一方が死亡していたり、法律上の父ないし母が誰か分からないケースでは、他の一方の親の本国法と子の本国法が同じときは、それが準拠法になる。


 本国法が同じでないときは、子の常居所地法が準拠法になる。ここでは、父母と子の常居所地法が同一であるかどうかは問われていないが、同一の場合であれ、準拠法は子の常居所地法となる。また、同一でないときは、最密接関係地法によるべきと解されるが、これは子の常居所地法と推定される。したがって、適用通則法第32条は、父母と子の本国法が同じでないときは、子の常居所地法によるとする。



まとめ

親子間の法律関係に関する準拠法は、次のように、子を中心にして決定される(第32条)。


1

 子と親の本国法が同じときは、子の本国法

  リストマーク 二重国籍の場合

  リストマーク 不統一法国の国籍を有する場合

  リストマーク 未承認国の国籍を有する場合


2

 その他の場合には、子の常居所地法





2.準拠法の適用

 適用通則法第32条は、親子間の法律関係の準拠法について定めており、ある者とある者との間に親子関係が成立しているかどうかは、第28条〜第31条が指定する準拠法による。つまり、親子関係の有無が問題になるときは、第28条(嫡出親子関係の成立)や第29条(非嫡出親子関係の成立、認知)、第30条(準正)、第31条(養子縁組)に基づき決定される準拠法による(代理母と親子関係の成立について)。


親子


 第32条に従い決定された準拠法は、身分関係であると、財産関係であるとを問わず、親子間のすべての法律関係に適用される。



@ 親権

 親権や看護権の帰属・分配(誰が親権者になるかという問題)も、この準拠法による。離婚の際の親権者の決定も、第32条による参照。なお、子が未成年か否かは、第3条による参照。親権の内容(民法第820条以下参照)、親権の消滅(第834条以下参照)も、第32条による。

 親権と 後見(第35条)、また、親権と 婚姻の効力(第25条) の関係については 適応問題 が生じるが、前者は親権(の準拠法)を優先させ、後者は婚姻の効力(の準拠法)を優先させる。



親権と後見の関係


 通常、未成年者は親権者によって保護されるが、親権者がいないとき、または、親権者が管理権を有しないときは、後見が開始される(民法第838条)。後見人は、親権者と同一の権利義務を有する(第857条、第859条)。

 一般に、親権の消滅は、後見の 先決問題 となる。

 親権の準拠法(第32条)によれば、親権は消滅し、後見が開始されるのに対し、後見の準拠法(第35条)によれば、親権は消滅しない場合には、両者の調整が必要になる(適応問題)。この場合には、親権の準拠法を優先させるべきとされている。

 他方、親権の準拠法によれば、親権は消滅せず、また、後見の準拠法によれば親権は消滅し、後見が開始する場合には、親権を優先させるべきである。




A 子の氏

 子の氏については、子の人格権に関する問題であるので、その本国法によるとする見解も有力で、戸籍実務は本国法に従っているが、通説は、第32条に基づき準拠法は決定されるとする。

B 扶養

 子の扶養について、我が国は、「子に対する扶養義務の準拠法に関する条約」を批准している他、「扶養義務の準拠法に関する条約」に基づき、「扶養義務の準拠法に関する法律」を制定している。したがって、扶養義務に関する問題は、これらの条約や法律による(第43条本文参照)。

 「子に対する扶養義務の準拠法に関する条約」によれば、締約国に常居所を持ち、21歳未満の子(嫡出子、非嫡出子、養子)からの扶養請求については、子の常居所地法による(第1条)。

 同条約が適用されない場合(例えば、子が締約国に常居所を有さない場合)は、「扶養義務の準拠法に関する法律」に従う。同法によれば、原則として、扶養権利者(子)の常居所地法が準拠法となる(第2条本文)。


 
 

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