後 見


1. 序

 我が国の民法上、後見とは、@ 親権者がいない未成年者や、A 事理弁式能力を常に欠いているため、家庭裁判所が後見開始を決定した成年者を保護する制度を指す (民法第838条参照)。

 なお、成年者の保護については、事理弁式能力の程度によって、成年後見、保佐、補助という三つの制度が設けられているが参照、準拠法の決定・適用に関しては、相違点が無く、区別する意義に欠ける。そのため、適用通則法は、三つの制度をまとめて規定している(第5条および第35条)。


2. 準拠法の決定

2.1. 原則

 後見は保護される者の能力(行為能力)に関する制度である ため、その者の属人法によることになる。適用通則法第35条第1項も、この考えに従っており、被後見人(保護される者)の本国法によると定める。 

 なお、外国に居住する者の保護を重視し、その者の常居所地法または住所地法によるとする立場もある。例えば、「未成年者の保護に関する官憲の管轄及び準拠法に関する条約」(1961年)は、未成年者の常居所地法によると定める。

2.2. 例外

 第35条第2項は、外国人のために日本で後見が開始される場合について、以下の2つのケースでは日本法によると し、第1項の本国法主義に例外を設けている。

@

保護される者の本国法によれば 後見が開始されるべきであるが、後見事務を行う者(後見人)がいないとき

 例えば、未成年者の本国法によれば 後見が開始されなければならないが、日本に後見人がいないときは、日本法により後見人を選任しうる。こ の例外的扱いは、被保護者の保護を目的としている。

 「後見事務を行う者がいないとき」とは、いずれの国にもいない場合を指すとする見解もあるが、そのような場合に限らず、日本にいない場合であってもよいと解すべきである。つまり、外国に後見事務を行う者がいる場合であっても、同人が来日しないときは、被保護者の保護を貫徹するため、日本法に従い、後見人を選任する必要があると考えられる(東京家裁昭和49年3月28日審判)。


A

第5条に基づき日本において外国人のために後見開始の審判がなされたとき

 これは、日本における取引の保護を目的としている。


 例えば、日本の裁判所が外国人のために後見の開始を決定し、後見人を選任したときは、後見人の権限は日本法に従い決定される。


 これに対し、外国で後見が開始され、後見人が選任されたときは、本国法による。そのため、後見人の権限は本国法によって決定される(東京高裁昭和33年7月9日判決、判時154号11頁)。



3. 準拠法の適用

 第35条に従い決定された準拠法は、後見開始の原因(民法第838条参照〔後見開始の審判の原因について第5条 参照)、機関(第839条以下参照)、後見人の事務(第853条以下参照)、後見監督人の指定・選任とその職務(第848条以下)、後見終了(第870条以下参照)など、後見に関する諸問題について適用される。

 なお、任意後見契約については、契約としての性質に鑑み、第7条によるとする見解があるが、第35条によると考えるべきである。

 他方、ある者が未成年者かどうかは、第3条による(参照)。


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