(1) 序 判断能力を欠く常況(状況ではない)にある成年者、あるいはその能力が(著しく)不十分な成年者について、国または公的機関が同人を制限能力者[1]と 宣告することによって、本人を保護し、また 、同人と関係を持つ者の利益や一般社会の公益を保護する制度(制限能力者制度)が設けられている。従来は、禁治産・準禁治産制度が施行されていたが、平成11年に民法が改正され、後見・保佐・補助制度に取って代わった。この法改正は、社会の高齢化に伴い、痴呆性高齢者、知的障害者や精神障害者等、保護を必要とする者の範囲が拡大し、また 、保護の必要性の程度が多種多様になったが、従来の禁治産・準禁治産という2つの制度では、これらの問題に完全に対応しえないために行われた。
法例(抵触法)は、民法(実質法)とは存在段階を異にするため、民法の用語に従わなければならないわけではないが、民法の改正に併せ改正された。適用通則法も新しい用語による。 (2) 成年後見・保佐・補助 成年後見・保佐・補助制度は、国家が、心身が正常でない者を制限能力者(かつては無能力者)と宣言することによって、同人を保護し、また、同人 に関係する者の利益や公益を保護することを目的とする。民法上、成年後見、保佐と補助は区別されているが、準拠法の決定(および国際裁判管轄)については区別の必要性に欠ける(三つの制度は判断能力の程度の違いに基づ き分けられているが、単位法律関係としては区別する必要性が無いため)。従って、国際私法(適用通則法および従来の法例)上は、まとめて規定されている。以下では、主として、成年後見についてのみ説明するが、保佐と補助についても同様に考えてよい。 外国人成年の保護に関しては、@準拠法の決定の問題の他に、Aどの国が裁判(審判)をなしうるかという管轄権の問題が生じる。@は国際私法の問題であるのに対し、Aは国際民事訴訟法の問題(すなわち、裁判管轄の問題)であるが、適用通則法第5条(および従来の法例第4条)は両者について定めている。なお、@の点については、以下の問題が生じる。
(3) 後見開始の審判の国際管轄権 従来より、後見開始の審判は、保護される者(被後見人)の能力に関わるため、属人法主義によるべきであること[2]、また、本国の対人主権[3]や法例修正理由書の趣旨など[4]に照らし、同審判をなす権限は、原則として、本国に属すると解されてきた。このような考えに基づき、法例第4条第2項 は、我が国は、外国人について、例外的に審判をなしうる旨を定めるものと解されてきた。これに対し、居住地国の管轄こそが原則的であり、法例の規定もこのように解釈すべきであるという見解も有力に主張されていた。なお、適用通則法第5条は、民法改正に則し、法例第4条第2項の文言を修正しているに過ぎず、上掲の問題に関する日本法の立場を明らかにしていない。 適用通則法第5条によると、日本の裁判所が外国人について後見開始の審判をなしうるための要件は次の通りである。
外国人の居住国に後見開始審判の管轄権を認めることによって、その本国の権限が排斥されるわけではないと解されている[5]。 適用通則法第5条は、外国人の保護のみだけではなく、日本国籍を有し、外国に滞在する者についても、我が国の裁判所の管轄権を認めている。
(4) 準拠法の決定 後見開始の審判の請求権者の範囲(誰が後見開始の審判を求めうるかどうかという問題)について、法例は規定しておらず、解釈で補う必要があった。「手続は法廷地法による」(従って、日本法が準拠法になる)の原則によるのではなく、実体法上の問題として、後見開始審判の原因の準拠法に基づき判断されるべきであるとされてきたが、適用通則法第5条は日本法によると明定している。 後見開始の審判の原因(どのような場合に後見開始の審判を行うかどうか)については、前述したとおり、日本法による(適用通則法第5条 )。これに対し、法例第4条第1項は、外国人の本国法と日本法が累積的に適用されるとしていた。 審判の効力(本人の行為能力の制限の程度や能力補充の方法(後見の必要性)など)も、 日本法(審判国法)による(適用通則法第5条、法例第4条第1項参照)。被後見人の本国法によるとするのでは、審判地において、同国の国民に対する審判と、外国人に対する審判の効力が異なることになり、適切ではないためである。 これに対し、誰が後見人になるかは後見の準拠法(適用通則法第35条)による。 (5) 審判の取消 日本の裁判所がなした後見開始の審判は、本国法または日本法が定める取消原因があれば、日本において取り消しうる。これを外国の裁判所が取り消すことはできない(すなわち、ある国の裁判所がなした審判を他の国が取り消すことはできない)。
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