事 案 の 検 討
韓 国 人 に 対 す る 後 見 開 始 の 審 判


 自動車事故にあい負傷したAは、傷の後遺症として、痴呆状態になり、事物の弁識能力を著しく欠くようになった。そのため、Aの母Bは、裁判所にAの後見開始の審判を求めた。また、自らを後見人に選任するよう求めた。なお、ABとも韓国人であり、日本で生活している。



1.  後見開始の審判の請求権者

 BAの後見開始の審判を申請することができるかどうかは、後見開始の原因の準拠法、すなわち、A(被後見人)の本国法によって決定される。



2
. 我が国の裁判所の管轄権

 Aは日本に住所を持つため、法例第4条第2項の要件 は満たされる。



3. 後見開始の原因の準拠法

 法例第4条第2項より、後見開始の原因の準拠法は、Aの本国法となる。

 大韓民国民法第9条によると、「心身の簿弱」により家族の生活を窮迫に陥れるおそれのある者に対し、裁判所は、本人、配偶者、4寸等内の親族、戸主、後見人または検察官の請求により、「限定治産」の宣告をしなければならない。

 「心身の簿弱」とは心身耗弱を指し、これは日本民法の保佐の原因にあたると解される。そのため、Bは、後見開始の審判を求めているが、保佐開始の審判をすべきである。なお、このように 考える場合、準拠法は、法例第4条ではなく、第5条に基づき決定されるが、結論は異ならない。



4
保佐人の選任

  Aの保佐開始が決定された場合、Aを保護するため、保佐人が選任されるかどうかは、保佐開始の審判の効力の問題であるので、その準拠法は法例第5条に従い決定される。従って、本件の準拠法はAの本国法である。

 なお、保佐人が選任される場合、誰が保佐人となるかという問題は、第25条の「保佐」の問題として扱われる。第25条は、第24条を準用しており、外国人の保佐については、第24条第2項が適用される。この規定によると、準拠法は、日本で保佐開始の決定が下されているため、日本法となる。




    この事案については、渉外判例百選46頁以下を参照されたい。 

 


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