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  1.2. 行為能力 (適用通則法第4条)



(1) 行為能力とは

 行為能力とは、親権者や後見人といった第3者の同意等を必要とせず、単独で法律行為を有効になしうる資格を指す。例えば、我が国の民法上、未成年者の行為能力は制限されており、法律行為(例えば、高価な商品の購入)をなすには、法定代理人(通常は親である親権者)の同意を必要とする。同意を得ずになされた法律行為は取り消すことができる(第5条、その例外として同条但書および第6条を参照せよ)。

 また、成人であれ、判断能力に欠ける者の行為能力を制限する制度が設けられているが(民法第7条〜第21条参照)、この制度について、適用通則法は特別に定めている(第5条 詳しくは こちら)。

 

(2) 準拠法の決定

 @ 本国法主義

 適用通則法第4条第1項によれば、人の行為能力に関する法律問題には、同人の本国法が適用される。これは、人の身分(関係)・能力は属人法によるという理論に従うものである。なお、属人法の決定基準については争いがあるが(参照)、適用通則法は国籍を連結点とする。



 A 行為地法 − 内国取引の保護 (第4条第2項)

 買主の行為能力が制限されていることを理由に、売買契約が取り消されるとすれば、取引の安全性が害される。この点を考慮し、第4条第2項は、第1項の定める本国法主義に例外を設けている。つまり、第2項の要件 が満たされる場合には、行為地法が準拠法となる[1]

 例えば、A国法によれば、満21歳をもって成人となり、21歳未満の者が親の同意を得ずに行った売買は取り消しうるものとする。この国の20歳の男性が日本国内で行った買い物の取消しが争われる場合、適用通則法第4条第1項によれば、本国法が準拠法となるため、売買契約は取り消しうることになるが、他方、日本法によれば、すでに成人であり、親の同意は不要である。このようなケースにおいて、売買の取消しを認めず、国内の取引を保護するため、第4条第2項は、行為地法(つまり、売買を行った日本法)によれば、行為能力者となるべきときは、行為能力者として扱うとする。相手方が未成年者であることを知っていたかどうか、または、知らなかったことに過失があるかいなかは問わない。



 なお、法例第3条第2項は、上例のように、法律行為が日本国内で行われた場合についてのみ、準拠法の変更(行為地法への変更)を認めていた。つまり、A国人がB国 (B国は日本以外の国とする)で行った売買の取消しが問題になるときは、行為地法であるB国法が準拠法になるわけではない。また、19歳の日本人がC国(この国の法律によれば、満18歳で成人になるとする)で取引を行った場合には、本国法である日本法が準拠法となり、行為地法であるC国法が準拠法となるわけではない。このよう に日本国内の取引のみを保護する取り扱いは批判され、改正されることになった。つまり、適用通則法第4条第2項は、行為地が日本国内であるか、外国であるかを問わず、準拠法の変更を認める。




 ただし、以下の要件を満たす必要がある。


@

 法律行為の当時、すべての当事者が同一の法域内に滞在していたこと(第4条第2項)

 例えば、売買契約の場合には、売主と買主が同じ法域内に滞在し、契約を結ぶ場合、その法域
の法(行為地法)を準拠法とすることができる。これに対し、A国に滞在する者が、インターネットを利用し、B国の会社に商品を注文するような場合(遠隔地的法律行為)には、準拠法の変更は認められない。このようなケースでは行為地との関連性が薄く、行為地(内国)の取引を保護する必要性は小さいからである。

A

 不動産に関する法律行為(例えば、土地の売買)については、不動産が行為地に存在すること(第4条第3項)

 つまり、A国に滞在する者同士がB国内の土地の売買を行うときには、準拠法は変更されない。このようなケースでは、行為地(A国)との関連性が薄いだけではなく、通常、不動産の取引は慎重に行われ、相手方の本国法について調べることが一般的であるから、行為地法による必要性は小さいこと、また、不動産に関する法律行為は所在地法上、有効でなければ、執行が困難であるといった点に基づいている。


 
なお、第4条第3項の「不動産に関する法律行為」には、物権的法律行為(例えば、所有権の移転、登記の設定)だけではなく、債権的法律行為(例えば、不動産の売買や賃貸借)も含まれるかどうかについては争いがあるが(参照)、適用通則法はこの点を明瞭にしておらず、解釈に委ねている。


 なお、第4条第3項は、親族法または相続法の規定によるべき法律行為(例えば、婚姻、離婚、相続)には、第4条第2項は適用されない(つまり、準拠法は行為地法に変更されない)と定める。そもそも親族法に関する法律行為には親族行為の準拠法が、また、相続法に関する法律行為には相続の準拠法が適用され、第4条第3項は、これを確認しているに過ぎない(後述参照)。




(3) 準拠法の適用

 行為能力に関する問題は上述した準拠法によるが、以下の点に注意しなければならない。

@

 第4条における「人」とは自然人を指し、法人を含まない。

A

 行為能力は、財産的行為能力と身分的行為能力(例えば、婚姻能力)に分けられるが、第4条が規定するのは、財産的行為能力のみである。身分的行為能力に関しては、それぞれの抵触規定が適用される。例えば、婚姻能力に関しては、婚姻に関する抵触規定(24条第1)が適用される。また、未成年者であれ婚姻によって成人と扱われるかという問題は、婚姻の効力の準拠法による(第25条参照)。

 また、権利能力( 1.1.参照)や不法行為能力(民法第712条参照)は、第4条が定める準拠法にはよらない。

 

         練習問題




[1]      同制度の沿革として、リサルディ事件(櫻田『国際私法』第3158頁以下)を参照されたい。

 行為能力を行為地法によるとするのは以下の理由に基づく。

@ 法律行為の当事者(例えば売主)にとって、相手方(買主)の本国法について調べることは負担が大きいこと

A 外国で行う法律行為は、その国の法によるとしても、当事者の予測に反するものではないこと

 


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