債 権 行 為 と 物 権 行 為

 

  売買、賃貸借、雇用など、当事者間に債権・債務関係を発生させる法律行為を債権行為と呼ぶ。例えば、ABが土地の売買について契約したり、または、この土地の購入のため、資金を借り入れることが債権行為にあたるが、この売買契約に基づき、所有権(民法第206条以下)を移転したり、また、代金の支払いを担保するために、抵当権(第369条以下)を設定する行為を物権行為と言う。



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債権行為:

当事者間に債権・債務関係を発生させる法律行為


物権行為:

物権の設定・移転を直接の内容とする法律行為




債権と物権

 債権とは、ABに売買代金の支払いを請求したり、BAに土地の引き渡しを求めるなど、一定の行為を請求する権利を指す。AないしBが要求に応じなければ、この権利は実現されないのに対し、物権(例えば、所有権、占有権、抵当権など)は、物を直接的に、つまり、第3者の行為を必要とせずに支配しうる権利である。物権の円満な実現を妨害したり、その危険性がある場合には、権利者は、妨害またはその危険の除去・予防を請求することができる(物権的請求権)。債権とは異なり、物権的請求権は、物権が消滅しない限り、消滅時効にかからない(なお占有訴権について民法第201条参照)。


 ある土地の所有権を有する者は、これと両立しない権利の発生を否定することができるが(物権の排他性)、他方、債権は、Aが同一の土地をBCに二重に譲渡するなど、同一内容の権利を複数の者に与えることができる。BCは、この二重譲渡を否認しえず(つまり、債権は排他性を有さない)、土地を取得できない場合は、Aに損害の賠償を請求しうるに過ぎない。





 売買契約に基づく所有権の移転時期について、我が国の通説・判例は、当事者間に特別の合意がない限り、所有権は売買契約の成立時に移転すると捉えている。したがって、債権行為(売買契約)と物権行為(所有権の移転)とを区別する必要はなく、後者は前者の中に含まれると解されている。

  Aが所有する建物をBに賃貸していたが、賃貸借契約の終了を理由に、その明渡しを請求する行為は債権的請求権(賃貸借契約の終了に基づく請求権)に基づいている。Aはさらに、所有権に基づき明渡しを請求することができる(物権的請求権)。判例・通説は、この2つの請求権がともに存在し、Aはどちらかを選択して行使しうると解している。

 



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