婚 姻 |
婚姻制度は宗教や習俗との関連性が強 く、各国の法制度には大きな違いが見られる。そのため、準拠法の決定が重要になるが、適用通則法は、婚姻の成立(実質的成立要件と方式)、効力、解消とに分けて規定している。
婚姻成立の実質的要件とは、婚姻が有効に成立するために満たされなければならない要件を指すが、例えば、当事者間の合意の有効性(例えば、詐欺または強迫が存在した場合の婚姻の有効性〔民法第747条参照〕)、婚姻適齢(民法第731条参照)、また、保護者の同意の必要性(民法第737条参照)などが問題になる。 適用通則法第24条第1項(法例第13条第1項)は、婚姻は人の身分に関する問題であるとして、本国法主義を採用しているが、婚姻の成立要件は、いわゆる、一方的要件にあたり、各当事者ごとに、その本国法に照らして判断される。例えば、アメリカ人男性とフランス人女性の婚姻の成立要件については、男性についてはアメリカ法、また、女性についてはフランス法と、各人の本国法に基づき判断される(配分的適用)。これは、婚姻前の当事者は完全に対等であること、また、両者の本国法を累積的に適用すると(例えば、前掲のケースで、男性にはアメリカ法とフランス法、また、女性についてもフランス法とアメリカ法を適用する)、婚姻の成立が困難になるとの理由に基づいている。
なお、個別的に検討するのではなく、当事者双方が満たしていなければならない要件もある(双方的要件)。例えば、社会政策上の理由に基づく婚姻禁止(重婚の禁止〔民法第732条参照〕、特定の期間の再婚禁止〔第733条〕、近親婚の禁止〔第734条〕など)や人種・宗教上の婚姻障害などがそれにあたるが、この問題には、双方の本国法が累積的に適用される。例えば、当事者の一方の本国法が重婚を禁止している場合は、相手方の本国法上、重婚が許されていても、重婚は認められない。従って、A国人男性とB国人女性の婚姻のケースにおいて、A国法によれば重婚も許されるが、B国法は禁止している場合、両人の婚姻は有効に成立しない。また、女性の本国法によれば、前婚の解消後、6ヶ月以内の再婚は許されない場合であっても、男性の本国法が1年後でなければ再婚しえないと定めるときは、1年後でなければ再婚は成立しない。なお、人種や宗教上の理由に基づき、婚姻を認めないとする外国法が準拠法に指定されるときは、公序違反 (適用通則法第42条) について検討する必要性がある。 ある要件が一方的要件であるか、または、双方的要件であるかは、実体法レベルではなく、国際私法レベルで決定される。なお、双方的要件として、累積的に適用しても、第24条第1項の趣旨に反するものではない。つまり、男性について、その本国法だけではなく、女性の本国法をも適用するにしても、男性がその本国法に服することに代わりはない。 本国法とは、婚姻締結時における本国法を指す。そのため、婚姻が有効に成立した後、法改正が行われても、婚姻の成立に影響を及ばさない。
婚姻の方式とは、婚姻が法的に有効に成立するために必要な当事者または第3者の外面的行為を指す。例えば、告知、(宗教上の)挙式、口頭または書面による届出、婚姻能力証明書の提出などがこれにあたる。他方、未成年者の婚姻に対する親の同意は、成立要件の問題として扱われる(参照)。 婚姻は人の身分に関する制度であるから、属人法によるとする考えもあるが、婚姻を行う場所における公益性を重視し、婚姻挙行地法を準拠法とする(第24条第2項)。これは、「場所は行為を支配する」という原則の適用の一例であるが、挙行地は、当事者双方に共通であることから、準拠法の決定が容易であるといった利点もある。 なお、適用通則法は、挙行地法主義を原則としながらも、本国法主義を同時に採用している(第24条第3項本文)。したがって、当事者は、挙行地法か、本国法(どちらの本国法であってもよい)かを選択することができ、婚姻の成立が容易になる。ただし、日本国内で行われる婚姻について、当事者の一方が日本人であるときは、日本法によらなければならない(挙行地法主義)(同項但書)。これは、日本人条項と呼ばれるが、身分関係の変更を戸籍に迅速に反映させる必要性(婚姻後、戸籍の変更が必要になるが、それを迅速に行うため、日本法により届出を義務付ける)や、日本法を適用するのが簡易であるため、設けられている。
日本法は、婚姻の方式として、届出を当事者に義務付けているが、届出受理地が婚姻挙行地となる。なお、婚姻届けを郵送するときは、郵送した地(発信地)を婚姻挙行地と捉える学説もある(法例第9条 参照)。
婚姻が法的に有効に成立すると、@夫婦の氏の統一(民法第750条参照)や、A夫婦間の財産の管理・帰属などに関する問題が生じる。前者は、婚姻の身分的効力に関する問題にあたり、後者は、婚姻の財産的効力に関する問題であるが、適用通則法は、両者を分けて規定している(第25条・第26条)。 第25条によれば、婚姻の身分的効力に関する問題は、まず、@夫婦の同一本国法による。これは、婚姻が人の身分に関する問題である こと、また、当事者の属人法によるべきであるとの考えに基づいている。なお、かつては、夫の本国法と規定されていたが、抵触法上の男女平等の観点から、改正されている。 夫の本国法がイギリス法であり、妻の本国法が日本法とされるケースのように、本国法が共通でないときは、A夫婦の同一の常居所地法による。夫婦が別居しており、常居所地法が同一でないときは、B夫婦に最も密接に関係する地の法律(最密接関係地法)による。このような準拠法の決定方法を段階的連結とよぶ。
このようにして指定された準拠法に基づき、以下の婚姻の身分的効力に関する問題を解決する。
@ 夫婦の氏の統一 この問題は、個人の人格にかかわる問題であるため、その者の属人法によるとする見解も主張されているが、通説・判例は、第25条の適用事例であるとし、段階的連結を認めている。
A 成年擬制 婚姻した者は、未成年者であっても、成年として扱うとする制度があるが(民法第753条参照)、これは、円満な婚姻生活の実現を目的としているため、婚姻の効力に属する問題として扱うべきとされる(多数説)。もっとも、これは行為能力に関する問題であるとして、第4条の適用を主張する見解も有力である。
B 婚姻より生じるその他の問題 夫婦の同居・扶助義務(民法第752条参照)や貞操義務など、婚姻より生じる問題の準拠法は、第25条に基づき定められる。なお、日常家事債務に関する問題も、婚姻生活上の問題であるとして、同条の適用事例とする見解もあるが(従来の多数説)、夫婦間の財産的効力の問題であるため、第26条を適用すべきとする見解も有力である。
このような法律の定めとは異なる財産の管理方法も認められる。つまり、婚姻の届出をなす前に、夫婦財産契約を締結し、別段の取り決めをすることができる(第755条)。例えば、婚姻中、妻の両親が死亡し、妻が相続した財産は、夫婦の共有財産にはならず、妻の個人財産にすると取り決めることができる。なお、夫婦財産契約は、婚姻の届出までに登記をしなければ、夫婦の承継人や第三者に対抗しえない(夫婦財産契約で定めた特則の適用を主張しえない(第756条))。 夫婦財産制について、諸外国の法律は異なっているため、準拠法の決定が重要になるが、第26条第1項本文は、第25条の規定が準用されると定める。なお、婚姻生活費用の分担に関しては、夫婦間の扶養に関する問題であるため、「扶養義務の準拠法に関する法律」によるとする見解が有力である。
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