離  婚


1. 国際裁判管轄

 渉外的離婚(日本人と外国人の夫婦の離婚、外国人夫婦の離婚)の訴えは、どの国の裁判所の管轄権に属するであろうか。この問題について、我が国の法律は定めておらず、また、確たる国際法規も存在しないため、条理に照らし決することになる。

 離婚は身分に関する問題であること、また、対人主権を理由に、本国の裁判所に管轄権が与えられるとする見解が主張されているが、この考えによれば、外国人夫婦の離婚の訴えについて、日本の裁判所は審理しえない。

 そのため、現在は、住所を基準にして決定すべきとする見解が一般的である。最高裁(昭和39年3月25日判決)は、民事訴訟法上の一般原則に従い、被告の住所地を管轄する裁判所が管轄権を有するとした。もっとも、それでは、当事者間の公平に著しく反する場合には、原告の住所地の管轄権も認められると判断している。


     最高裁判決について

 


2. 準拠法の決定

 準拠法の決定には、適用通則法第25条(婚姻の効力) が準用される(第27条本文)。第25条が準用されるのは、婚姻関係の準拠法をできるだけ統一するためである。なお、第27条本文が「第25条による」ではなく、「準用する」と定めているのは、特に、最密接関連地の確定について、異なる要素が考慮される可能性があるためである(つまり、最密接関連地の特定方法は、婚姻の場合と同じである必要はない)。


 ただし、夫婦の一方が、日本に常居所を有する日本人であるときは、日本の法による(第27条但書〔日本人条項〕)。これは、夫婦の一方が日本人で、日本に常居所を有するときは、最密接関連地は、日本になるであろうとの推測に基づいている。また、戸籍窓口で最密接関連地を特定することは困難であることから、これを回避するために、日本法を準拠法に指定している。

ハンド 夫婦の一方が日本人である場合は、両者の本国法は異なる(なお、両者とも日本人であれば、渉外事件ではないため、準拠法を決定する必要はない)。従って、第25条に従うとすれば、次に、夫婦の常居所地法が同一かどうかを検討しなければならないが、それが日本にあるとすれば、準拠法は日本法となる(第27条但書に同じ)。また、日本にないとすれば、最密接関連地法を特定しなければならないが、夫婦の一方が日本人で、日本に常居所を有するときは、日本法が最密接関連地法になると推測しうる。


 離婚の許否、協議離婚の許否(民法第763条参照)、離婚原因(第770条参照)は、離婚の準拠法による。なお、外国の法律が準拠法となり、それによれば、ある特定の機関の審査が必要になるが、我が国にはそのような手続が存在しない場合には、同趣旨の手続で代替する必要が生じる(参照)。


ハンド 我が国では、協議離婚(そのために、家庭裁判所に離婚調停を申し立てることもできる)だけではなく、裁判離婚も認められるが、離婚の訴えを提起する前に、まず、家庭裁判所に調停を申し立てなければならない(家事審判法第18条〔調停前置主義〕)。
 
 準拠法である外国法が裁判離婚のみを認めているとき、家庭裁判所は、調停により離婚を成立させることができるであろうか。この問題は否定すべきであろう。なぜなら、調停は、協議離婚を目的とするものであり、その性質上、裁判離婚に異なると解されるためである。


 離婚の直接的効果(婚姻の解消)は、離婚の準拠法による。他方、付随的効果については、以下の通りである。


 @ 財産分与  

 離婚に基づく財産分与(民法第768条参照)に関する問題は、すべて、夫婦財産制の準拠法(適用通則第26条)によるとする見解もあるが、これは財産の確定や帰属に関する問題にのみ適用され、共有財産の分与については、離婚の準拠法によるとする見解が有力である。例えば、ある財産は夫の個人財産 〔特有財産〕に属するか、または、夫婦の共有財産に属するかという問題は、夫婦財産制の準拠法により、それが共有財産であり、分割する必要がある場合は、離婚の準拠法による。


 
A 損害賠償請求

 有責配偶者に対する損害賠償請求は、不法行為の準拠法(適用通則法第17条)によるとする学説や下級審判例もあるが、離婚に関する財産的請求は、同一の準拠法によらしめ、混乱を避けることが望ましいため、離婚の準拠法によるとする立場が一般的である。

 なお、従来の多数説は、離婚そのものを原因とする損害賠償請求ではなく、配偶者の有責行為に対する損害賠償請求については、適用通則法第17条によるとする。


 
B 離婚後の扶養

 離婚後の扶養に関する問題は、「扶養義務の準拠法に関する法律」第4条第1項に基づき、離婚について適用された法による。


 C 復氏

 離婚後、婚姻前の氏に戻すべきかいなかは(民法第767条)、個人の人格権に関する問題にあたるため、復氏が問題になる者の本国法によるとする見解もあるが、従来の多数説は、離婚の準拠法によるとする。


 D 親権者の決定  

      この問題については、こちら


 

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