これまでの授業では、渉外事件の実体問題には、常に日本法を適用してよいわけではなく、国際私法(適用通則法)に従い準拠法を決定することについて説明してきた。 他方、離婚や養子縁組等、渉外的法律関係を成立させる手続については、「手続法は法廷地法による」という原則が国際私法および国際民事訴訟法上、確立している。つまり、この理論によれば、実体問題には外国の法令(実体法)が適用される場合であれ、手続問題は法廷地の法令(手続法)による。例えば、日本に常居所を持つドイツ人夫婦の離婚について我が国の裁判所に訴えが提起される場合、実体問題(そもそも離婚が法的に認められるか、認められる場合には、どのような理由である必要があるか)はドイツ法によるが(第27条)、裁判手続は日本法による。 なお、一国の手続規定(例えば、離婚手続や養子縁組手続など)は、その国の実体法の適用を前提にしているため、外国実体法の適用に際しては調整が必要になる場合がある。これを外国実体法と内国(法廷地)手続法の調整問題という。この点について、以下の事例を検討されたい。
![]() 養子縁組に関する家庭裁判所の許可 盛岡家裁平成2年8月6日審判(渉外判例百選〔第3版〕150頁)
1.事案の概要 申立人A(日本人)は、B(アメリカ国籍、イリノイ州法が本国法とされる 〔
2.審判要旨 「法例第20条第1項本文[前段][適用通則法第31条第1項前段]によれば養子縁組は養親の本国法によると定められているので、まず養親の本国法たる日本法に鑑みて本件をみるに、右認定事実に徴すると、申立人〔A〕と事件本人〔Bの連れ子〕との養子縁組には、要件的になんら欠けるところが存せず、かえって家庭裁判所による許可をも要しないところである〔民法第798条但書参照〕。他方、法例第20条第1項後段〔適用通則法第31条第1項後段〕によると養子の本国法が養子縁組の成立につき第三者の同意、公の機関の処分等を要件とするときはその要件の充足も必要である旨定めているところ、養子の本国法たるイリノイ州法では、本件のような養子縁組の成立には、実親が裁判所において同意をし、裁判所が子の幸福等を考慮して決定することを必要としているので、この点を案ずるに、まず事件本人の実母〔B〕が当裁判所の家庭裁判所調査官による調査に際し、本件養子縁組に積極的な同意を表明していること及び事件本人の実父が実母や事件本人とまったく連絡がなく所在が不明で同意を得るのが著しく困難であることは明らかである。また、イリノイ州法において裁判所の決定を要するとしている趣旨と日本法において未成年者の養子縁組に家庭裁判所の許可を要している趣旨とは実質的に同一と解されるから、イリノイ州法による裁判所の決定に代わるものとして日本の家庭裁判所による右許可審判があれば、イリノイ州法による右要件が満たされるものと解すべきである。」
なお、我が国の戸籍実務では、本国法上の裁判所の決定を、@ 養子縁組の実質的成立要件としての公的機関の関与と、A 養子縁組を創設するための方式とに分け、@については、我が国の裁判所(家庭裁判所)の許可で代行し、Aについては、縁組地法法、つまり日本法の方式(届出)によるとする分解理論が採用されている(山田『国際私法』(新版)506頁参照)。
[1] 別居が成立すれば、夫婦間の身分的財産関係は消滅するが、身分的なつながりは消滅しないため、再婚は認められない。 [2] 養子制度の濫用を防止するため、裁判所等の国家機関の関与を必要とする国が多い。なおこの点につき、適用通則法第31条第1項後段参照。
[3]
渉外判例百選[第3版]150頁以下参照。また、遺言の検認につき、前出百選176頁以下参照。 |
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