養 親 子 関 係


 自然の親子関係にない者の間に、法定の親子関係を形成する契約を養子縁組という 。なお、養子縁組を身分法的な契約としてではなく、裁判所やその他の公的機関の宣言によって成立する制度と捉える国(例えば、アメリカ、イギリス、イタリア、東欧諸国)もある〔1〕

 近年、西欧人が発展途上国出身の子供を養子にするといったケースが増えており、渉外的養子縁組は実務上も重要な制度の一つであるが、@その成立には、当事者間の合意だけではなく、裁判所やその他の公的機関の関与が必要かどうか、必要とされる場合にはその態様、A養親や養子となりうるもの資格・年齢、また、B養子縁組の効果について、諸外国の法律には違いがあるため、準拠法の決定が重要になる。


 養子となる者の年齢を7〜8歳までに制限している国も少なくないが、我が国は、家族制度の旧慣に従い、成年を養子にすることも認めている。ただし、尊属または年長者を養子にすることは認められない(民法第793条、第805条)。おじ・おばが年少者であっても、尊属を養子にすることはできないため、養子縁組は認めれない
 
 我が国では、15歳に達した者(養子)は、単独で養子縁を有効にすることができるが、15歳未満の者は、法定代理人の承諾を必要とする(第797条第1項)。なお、未成年者を養子とする縁組については、自己または配偶者の直系卑属が養子になる場合を除き、家庭裁判所の許可を得なければならない(第798条)。また、配偶者のある者が未成年者を養子とする場合は、配偶者ともに行わなければならない。ただし、配偶者の嫡出子を養子とする場合や、配偶者が養子縁組を行いえない場合は、単独でなしうる(第795条)。



 なお、多くの国で養子縁組が認められているが、イスラム教諸国(チュニジアを除く)のように、これを全く認めない国や、インドのようにヒンドゥー教徒間でのみ認める国もある〔2〕。養子縁組は1名の子女との間でのみ認めるとする中国養子法の適用を公序に反するとして排斥した事例もある(神戸家審平成7年5月10日、ジュリスト1137号148頁)。



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養子縁組の裁判管轄



実 質 的 成 立 要 件


1. 準拠法の決定

(1) 適用通則法第31条第1項前段

 近時の諸外国の立法例に同じく、適用通則法第31条第1項は、養子縁組は
養親の本国法によると定める。養子保護の重要性に鑑み、養子の本国法によるべきとする立場も成り立ちうるが、養親の本国法が準拠法に指定されているのは、以下の理由に基づいている。

@

縁組成立後は、養親の本国で生活するのが一般的であること

A

養子には養親の国籍を与える国が増加しており、縁組成立後、養子の本国法は養親の本国法となること


 夫婦が共に養親になる夫婦共同養子縁組のケースにおいて、夫婦の本国法が異なるときは、それらを累積的に適用するのではなく、@養父と養子との関係については、養父の本国法、また、A養母と養子との関係については、養母の本国法が適用される。したがって、一方の本国法が、夫婦共同養子縁組を認めていない場合には、縁組は成立しない。なお、養親に配偶者がある場合の養子縁組について適用通則法は特別の規定を設けていないが、準拠法の決定に関し、複雑な問題が生じ、縁組の成立が困難になることもあることから、特別に定める国も少なくない〔3〕


(2) 適用通則法第31条第1項後段(セーフガード条項)

 養親の本国法が準拠法として適用される結果、養子が保護されなくなることを回避するため、第31条第1項後段は、養子の本国法上の保護要件が充足されることを求めている。なお、我が国の戸籍実務では、養子の本国の官公署が発行した要件具備証明書が提出されれば、同人の本国法上の保護要件が充足されるものとして扱われている〔4〕

セーフガード条項

養子の承諾であってもよいし、第3者の承諾であってもよく、組み合わせは問わない。



問題

養子の本国法である外国法上、裁判所の決定が求められる場合の問題

問題 反致の許容性



2.準拠法の適用

(1) 養子縁組の許否、夫婦共同養子縁組の許否(要否)、養子・養親の年齢および年齢差、養子の縁組能力、法定代理人による代諾や同意など、養子縁組の成立要件に関する問題は、前述した準拠法による。

(2) 公的機関の関与の必要性やその態様も、前述した準拠法による。

(3) 適用通則法は、養子縁組の
効力について特別に規定していない。第31条は、「養子縁組の要件は」ではなく、「養子縁組は」と定めていることから、効力の準拠法も第31条によると解されている。

(4) 実方の血族(養子の実の親など)との親族関係を終了させる特別養子縁組(民法817条の2)についても、第31条第1項前段の準拠法による(第31条第2項)。他方、親族関係が終了しない場合、養子と実方の親との関係に関する問題は、親子間の法律関係の準拠法による(第32条)。



 形 式 的 法 律 要 件 (方式)



 養子縁組の形式的成立要件(方式)は、養親の本国法または縁組地法による(第34条)。夫婦が共同で養子縁組を行うケースで、両者の本国法が異なる場合は、縁組地法を準拠法とし、両者が同一地で縁組をすれば、方式の充足が容易になる。

 なお、民法第801条は、外国にある日本人間の養子縁組の方式について特別に定めている。



 効  力


 
 旧法例は、養子縁組の効力について特別の規定を設け、養親の本国法によると定めていたが(第19条第2項)、改正法例および現行法である適用通則法は、特別に定めていない。現行第31条第1項が、単に「養子縁組は」と定めているのは、養子縁組の成立要件だけではなく、効力をも含ませる趣旨と解されるため、縁組の当時の養親の本国法が準拠法となる。

 この準拠法に基づき、@ 養子が嫡出子としての身分を取得するか、A 取得する場合にはその時点、B 養親の親族との間に親族関係が発生するかなどの問題について判断する。

 なお、養子とその実方血族との親族関係を終了させる特別養子縁組については、新しい規定が設けられており、第31条第1項前段によると定められている(第31条第2項)。つまり、縁組の当時の養親の本国法が準拠法となるが、養子の本国法上の要件(第31条第1項後段)は考慮されない。




 


※ 脚注

〔1〕 山田燎一『国際私法』新版有斐閣 (2003年)499頁参照。

〔2〕 山田燎一『国際私法』新版有斐閣 (2003年)499頁参照。

〔3〕 山田燎一『国際私法』新版有斐閣 (2003年)504頁参照。

〔4〕 山田燎一『国際私法』新版有斐閣 (2003年)502頁参照。



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