1.問題の所在 成人男性A(甲国籍)と未成年の女性B(乙国籍)が結婚し、甲国に住まいを設けたが、両人の居所について、Bの両親(ともに乙国籍を有する)が異議を申し立てた。
このケースにおいて、Bの両親の権利(居所指定権)と、配偶者Aの権利(同居請求権)のどちらを優先させるべきであろうか。一国の法秩序において、このような問題は、通常、体系的に処理されている。例えば、我が国の民法は、未成年者であれ、婚姻すれば、成年に達したものとみなすと規定している(第753条〔婚姻による成年擬制〕)。従って、Bは両親の親権に服さず、両親の権利はAの権利に優先しない。 これとは異なり、結婚した後であれ、未成年の子は親権に服し、親権の方が優先するという内容の法律を制定することもできる。例えば、上掲の@の問題の準拠法(乙国法)は、親権(Bの両親の権利)の方が優先すると定めていたとしよう。これに対し、Aの問題の準拠法(甲国法)は、配偶者(A)の権利の方を優先させているとする場合(法規の重複)には、何れの準拠法を適用して、Bの居所決定に関する法律問題を解決すればよいであろうか[1]。 なお、これとは逆に、@の方法で指定された準拠法によると、配偶者の権利が優先し、Aの方法で指定された準拠法によると、親の権利の方が優先する場合もありうるが、この場合には法規の欠缺が生じる。 上述した例からも分かるように、国際私法は、ある生活関係を単位法律関係に分け、それぞれの法律関係に適用されるべき準拠法を指定する(これを国際私法のモザイク的構造と呼ぶ)。複数の国の法律が準拠法に指定され、それらの内容が相互に矛盾する場合には、どのように適応させるか、または、調整が必要になる。確かに、国際私法の役目は準拠法の指定であり、その調整は国際私法上の問題ではないと考えることもできるが、それでは国際私法の適用より生ずる問題を放置し、紛争の法的解決といった本来の目的が達成されないことになるため、適切ではない。指定された準拠法相互間の不調和をどのように適応させるか、または調整するかという問題を適応問題または調整問題という。
2.適応問題の解決 適応問題は、一般に、以下のようにして処理される[2]。 (1) 抵触法レベルでの対応 適応問題が生じないように、一つの準拠法のみを指定する方法である(一方の抵触規定の排除)。例えば、前掲の事例でいえば、Bの居所指定に関する問題は、夫婦間の法律関係(姻の効力)に関するものであり、親子間の法律問題には当たらないと考え、夫婦間の法律関係に関する準拠法のみを指定するという処理方法である。このようなアプローチは、問題となっている法律関係を夫婦間の法律関係(婚姻の効力)として性質決定するものである( → 性質決定については こちら)。 このような抵触法レベルでの調整が、明文で規定されている場合もある(例えば、適用通則法第31条第2項[3]または扶養義務の準拠法に関する法律第4条第1項)[4]。
(2) 準拠法レベルでの対応 また、準拠法レベルで適応問題に対処する方法もある。例えば、前掲のケースでいえば、婚姻後も未成年者Bが親権に服するのは、配偶者Aの保護に服さない場合においてであり、BがAによって保護される場合には、Bに親権は及ばないというように親子関係の準拠法(@の問題の準拠法)を解釈し、婚姻に関する準拠法(Aの問題の準拠法)との抵触を解消する方法である。 [1] 適応問題の古典的な事例について、例えば、櫻田「国際私法」[第2版] 138頁参照。 [2] 適応問題の処理について、米州間条約第9条は、次のように定める。 「1つの同じ法律関係の違った面に適用される複数の異なった法律は、その各々の法律により求められる目的を達成するために調和するように適用されなければならない。それらの法律の同時適用により生じる困難は、各々の個別的場合における正義の要請に照らして解決されなければならない」(溜池『国際私法講義』227頁より引用)。 [3] 特別養子(民法第817条の2)に関する抵触規範。特別養子とは、実方の親との親子関係を終了させる養子縁組である。この場合には、実方の親と子の法律関係であれ、準拠法は適用通則法第32条ではなく、第31条 第1項前段に従い決定される(第31条第2項)。
[4] 澤木・道垣内「国際私法」[第4版補綴版] 26頁参照。 |
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