代理出産で生まれた子の法律上の親であることを確認する外国裁判の承認

 

 最高裁判所 平成19年3月23日決定、民集第61巻第2号619頁


1.事案の概要

 日本人夫婦(夫のX1と妻のX2)は、米国ネバタ州に住む女性Aと代理出産契約を締結し、以下のように取り決めた。

 @ AはXらの受精卵を子宮内に入れ、出産まで子供を妊娠すること

 A 生まれてくる子の法律上の親はXらとすること

 なお、ネバタ州修正法第126章第145条は、このような代理出産契約を認めている。また、同章は親子関係を確定するための裁判手続について定めている。

 Aが双子を出産すると、Xらは、ネバタ州内の地方裁判所に自らが実の親であることの確認を申し立て、裁判所によって認められた。これを受け、ネバタ州は、X1を父、また、X2を母とする出生証明書を発行した。

 X1とX2が東京都品川区役所に出生届を提出したところ、区役所は、X2が子供を出産したとは認められず、X1・X2と子供との間に嫡出親子関係があるとは言えないとし、出生届を受理しなかった。この決定の適法性を争い、Xらが提訴したところ、第1審はこれを退けたが、第2審はXらの主張を認め、出生届を受理するよう命じた。



2. 最高裁判決

 (1) 民事訴訟法第118条第3号の要件について

 民事訴訟法第118条は外国判決の承認の要件について定めているが、本件のネバタ州地方裁判所の裁判は、同条にいう「外国裁判所の確定判決」に該当する。

 また、第118条第3号によれば、我が国の公序に反する外国判決は承認されない確かに、外国判決が我が国には存在しない法律制度に基づく内容を含んでいる場合であれ、そのことのみによって、当該外国判決が我が国の公序に反するとは言えない。しかし、それが我が国の法秩序の基本原則ないし基本理念に合致しないときは、第118条第3号が定める公序に反するものと解される。

 代理出産により生まれてきた子と受精卵を提供した者(X1とX2)との実親子関係について、我が国の民法は定めていないが、実親子関係は身分関係の中で最も基本的なものであり、身分法秩序に根幹に関わる。それゆえ、民法は、同法が定める実親子関係のみを認め、それ以外のものは認めない趣旨と解される。この点を考慮するならば、民法が認めない実親子関係の成立を確認する外国裁判は、第118条第3号にいう公序に反し、承認しえないこととなる。



 (2) 我が国の裁判所は実親子関係(嫡出親子関係)の成立を認めることができるか

 婚姻している夫婦と子供との間に、嫡出親子関係の成立を認めることができるかは、親の本国法に基づき判断される(法の適用に関する通則法第28条第1項)。本件では、Xらの本国法である日本法に基づき判断されるが、上述したように、日本民法は、同法が定める実親子関係のみを認める趣旨と解される。同法によれば、X2と子供との間には母子関係は認められず、したがって、Xらと子供との間に嫡出親子関係があるとはいえない。


  リストマーク 外国判決の 承認執行




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