はじめに
EC条約は、域内における開業やサービス提供の自由を保障している。しかし、種々の規制が残存し、役務者が他の加盟国で開業したり、役務を提供することの障害となっている(参照)。このような状況を改善し、域内のサービス市場を自由化するため、欧州議会とEU理事会は、2006年12月、指令を制定した。
サービス市場自由化の重要性
1.立法手続
(1) 欧州委員会の提案(Bolkestein 案)
サービス市場の自由化に関する指令は、EC条条約第251条が定める立法手続(共同決定手続)に従い、欧州議会とEU理事会によって制定された。通常の立法手続に同じく、法案は欧州委員会によって起草され(委員会は2004年1月13日に指令案を採択している)、2004年2月6日に欧州議会とEU理事会に送られている。
委員会案は、多種のサービスを対象にする一方で、多くの例外を設けており(参照)、複雑すぎると批判された。また、派遣されるサービス提供者に関しては、本国の法令を適用するという「本国法主義」を採用しているが、これは、低賃金の旧共産主義国(2004年5月にEUに加盟している)からの労働者の移入を招くとし、従来の加盟国より厳しく批判されることになった(参照)。このような批判は、欧州憲法条約の批准に関する国民投票にも大きな影響を及ぼしたと解される。
(2)欧州議会の第1読会
EC条約第251条によると、委員会案は、欧州議会とEU理事会に送られ、審議されるが、まず、議会が採決をとる(参照)。議会の本拠地 であるストラスブールでは、指令案の採択に反対するデモが行われるようになった(参照)。
議会の審議も紛糾したが、2006年2月16日、議会は指令案を大幅に修正し、独自の提案を採択するにいたった。特に、@ 指令の対象となるサービスを明確化ないし限定(医療サービスを指令の適用範囲から除外)するとともに、A
「本国法主義」(country of origine principle)を "the freedom to provide services" に置き換えている。また、B サービス提供者の派遣に関する規定(指令案第24条および第25条)を削除している。
議会の決定を受け、委員会は 当初の指令案 を修正し、再び、議会と理事会に提出している(詳しくは こちら)。
(3) EU理事会の第1審議 − 共通の立場の採択
議会の修正案と委員会の新しい法案は、EU理事会によって検討されることになったが、2006年5月29日の会合で、理事会は、委員会案に沿った上で、若干の修正を加えることで合意に達している。この決定(立法手続上、「共通の立場」と呼ぶ)は7月24日の会合で正式に採択されたが、議会に送られ、審議されることになった。
(4) 欧州議会の第2読会
2006年11月15日、欧州議会は「共通の立場」を大筋で了承したが、一部の規定については、立法技術的に小さな修正を加えた。そのため、再びEU理事会で審議されることになった。
(5) EU理事会の第2審議
欧州議会の修正案を受け、EU理事会は再び審議することになったが
、理事会はこれを了承し、12月12日に指令が制定された。
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