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225

1. The Court of First Instance shall have jurisdiction to hear and determine at first instance actions or proceedings referred to in Articles 230, 232, 235, 236 and 238, with the exception of those assigned to a judicial panel and those reserved in the Statute for the Court of Justice. The Statute may provide for the Court of First Instance to have jurisdiction for other classes of action or proceeding.

Decisions given by the Court of First Instance under this paragraph may be subject to a right of appeal to the Court of Justice on points of law only, under the conditions and within the limits laid down by the Statute.

2. The Court of First Instance shall have jurisdiction to hear and determine actions or proceedings brought against decisions of the judicial panels set up under Article 225a.

Decisions given by the Court of First Instance under this paragraph may exceptionally be subject to review by the Court of Justice, under the conditions and within the limits laid down by the Statute, where there is a serious risk of the unity or consistency of Community law being affected.

3. The Court of First Instance shall have jurisdiction to hear and determine questions referred for a preliminary ruling under Article 234, in specific areas laid down by the Statute.

Where the Court of First Instance considers that the case requires a decision of principle likely to affect the unity or consistency of Community law, it may refer the case to the Court of Justice for a ruling.

Decisions given by the Court of First Instance on questions referred for a preliminary ruling may exceptionally be subject to review by the Court of Justice, under the conditions and within the limits laid down by the Statute, where there is a serious risk of the unity or consistency of Community law being affected.

 

[旧第225条]

1. A Court of First Instance shall be attached to the Court of Justice with jurisdiction to hear and determine at first instance, subject to a right of appeal to the Court of Justice on points of law only and in accordance with the conditions laid down by the Statute, certain classes of action or proceeding defined in accordance with the conditions laid down in paragraph 2. The Court of First Instance shall not be competent to hear and determine questions referred for a preliminary ruling under Article 234.

2. At the request of the Court of Justice and after consulting the European Parliament and the Commission, the Council, acting unanimously, shall determine the classes of action or proceeding referred to in paragraph 1 and the composition of the Court of First Instance and shall adopt the necessary adjustments and additional provisions to the Statute of the Court of Justice. Unless the Council decides otherwise, the provisions of this Treaty relating to the Court of Justice, in particular the provisions of the Protocol on the Statute of the Court of Justice, shall apply to the Court of First Instance.

[第3項および第4項省略   参照


解説

 旧第225条は、第1審裁判所の構成・管轄権等について定めていたが、ニース条約の発効後、同裁判所の構成224で、また、その管轄権(司法小委員会の判断の審査権限を含む)やEC裁判所への控訴については第225条で定められることになった。

 

 旧第225条第1項前段は、第1審裁判所はEC裁判所に附属すると定めていたが、ニース条約の発効後、この文言は削除され、両裁判所は同格に規定されている(220条第1項参照)。もっとも、従来どおり、EC条約第7条は第1審裁判所をECの機関として挙げていない。それゆえ、機構制度上、同裁判所は、従来通り、EC裁判所に属するものと考えられる。他方、旧第225条第1項後段は、第1審裁判所は先行判断を下すことができないと定めていたが、これも削除されている(新第225条第3項参照)。

 

(1) 1

 従来、第1審裁判所の管轄権は、第1審裁判所の設立に関する理事会決定の中で挙げられていたが、ニース条約発効後はEC条約の中で定められる。もっとも、その例外(すなわち、EC裁判所の専属管轄)や新たに与えられる管轄権はEC裁判所規程の中で、また、将来、司法小委員会(judicial panels)に委譲されることになる管轄権は、同委員会の設置に関する理事会決定の中で規定されるため、注意を要する(新第225条第1項および新第225a条第2参照)。

新第225条第1項前段によれば、第1審裁判所は以下の5つの訴訟類型に関する管轄権を有する。


@ 

EC諸機関の行為(法令)の無効宣言を求める訴え230

A 

EC諸機関の不作為確認の訴え(第232条)

B 

ECに対する損害賠償請求訴訟(第235条)

C 

EC・職員間の紛争に関する訴え(いわゆる staff cases、第236条)

D 

仲裁条項に基づく訴え(第238条)

 

 これらの訴訟に関し、同裁判所は第1審として判示することになるが、管轄権は実質的に拡大されていない。EC裁判所から第1審裁判所への管轄権の委譲は今後の重要課題の1つに当たる。なお、加盟国の条約義務違反確認の訴え(第226条ないし第227条)は挙げられていないが、これは、いわゆる特権的原告(privileged plaintiffs)の訴えはEC裁判所の専属管轄に属することに合致している。すなわち、新EC裁判所規程第51条(新規程)によれば、加盟国、EC諸機関および欧州中央銀行によって提起された訴えは、EC裁判所の専属管轄に属する。したがって、前掲の5類型の訴えであれ、加盟国やEC諸機関によって提起される場合には、第1審裁判所は審議しえないことになる。旧法上は、このような制限が設けられていなかったため、特権的原告の訴えを第1審裁判所に審理させることも理論的に可能であった。しかし、これらの訴えは、いわゆる「憲法上の問題」を含むことが多いため、EC裁判所に訴えが係属していた。

 ところで、第1審裁判所の判断は、法的判断に関してのみEC裁判所に控訴しうるが(第225条第1項第2款)、控訴の要件と限度(conditions and limits)は、EC裁判所規程の中で定められる(規程第56条〜第61条参照)。

 

(2) 2

 第1審裁判所は、司法小委員会の判断について審査することができ(第2項第1款)、この審査は、さらにEC裁判所によって再審査されうる(同第2款)。もっとも、EC裁判所による再審査は、EC法の統一または一貫性に重大な危険性が存する場合において、例外的に行われる。これにはEC裁判所の負担軽減・訴訟遅延の回避といった意義がある。なお、第2項第2款は、EC法の統一または一貫性に重大な危険性が存する場合に限りEC裁判所は審査しうると定めているわけではない。そのため、その他のケースにおいても審査が認められようが(例えば、第1審裁判所の判断が明らかに誤まっている場合)、これを広範囲で認めるとすれば、第2項の趣旨(特に、訴訟の遅延防止)が減殺される。


審級

 ところで、第2項の文言からすれば、訴訟当事者は、EC裁判所に上告しえず、EC裁判所が職権で1審裁判所の判断を審査すると解される。なお、EC裁判所はこれが義務付けられているわけではないが、恣意的な不作為は本来のEC裁判所の任務(新第220条第1項参照)に反しよう。

 EC裁判所による再審査の要件ないし限度について、新規程第62条(新規定)は、第1法務官(First Advocate-General)がEC法の統一または一貫性に重大な危険性が存すると考えるときは、EC裁判所に再審査を行うよう提案しうると定める(第1項)。従来は存在しなかった同手続について、以下の点を指摘すべきであろう。


 EC裁判所規程 62条(新規定)


@   1法務官はEC裁判所に審査を提案しうるのみで、義務ではない。また、EC法の統一または一貫性に重大な危険性が存在するかどうかの判断に迷う場合について、新規程第62条は定めていないが、制度の趣旨(すなわち、EC法の統一・一貫性の維持)を考慮すると、EC裁判所に審査を提案すべきと解される。なお、EC裁判所は、この提案に拘束されない。

A   手続の遅延を防ぐため、同提案は第1審裁判所の判断が下されてから1ヵ月以内になされなければならず(同第2項前段)、EC裁判所は、提案の受領後、1ヵ月以内に審査するかどうかを決定しなければならない(同後段)。

B   EC裁判所は、第1法務官の提案がある場合にのみ、第1審裁判所の判断を審査することができるかどうか、それとも、この提案がない場合でも職権で審査しうるかどうかは定かではないが、新規程第62条の解釈としては、前者の方が適切であろう。

C 第1法務官による提案は、第1審裁判所が司法小委員会の判断を審査する場合(新第225条第2項)と同裁判所が先行判断を下す場合(同第3項)にのみ行われ、従来から存する直接訴訟の控訴手続(同第1項)に関してはなされない。

 

 なお、政府間協議では、これらの規定のみでは不十分とされ、特に、@自らの権利を保護するために当事者がEC裁判所の訴訟手続上で果たすべき役割、A第1審裁判所の判断の執行力に及ぼす影響、BEC裁判所の判断が紛争当事者に与える影響について(規程の中で)定める必要があるとする旨の宣言が採択された。

       

(3) 3

 第3項第1款は、ある特別の分野に限定されるものの、第1審裁判所にも先行判断(EC条約第234条)を下す権限を与えている。これは旧第221条第1項の明文の規定を覆す大改正に当たり、EC裁判所の負担軽減に貢献しうると解されるが、他方、第1審裁判所の負担増は避けられない。なお、本改正に伴い、EC条約第234条(特に、第1項)も改正されるべきであったと解されるが、これはなされていない。

 第3項第1款は、第1審裁判所に権限を与えることができるとはしておらず、同裁判所の権限を明確に肯定しているが、どの分野において、この権限を認めるかどうかは、EC裁判所規程の中で定められるとしている(これに対し、直接訴訟に関しては、EC条約内で規定されている(第225条第1項))。したがって、立法者は理事会であり、加盟国ではない。また、条約改正手続を経ずに、第1審裁判所に非常に重要な権限を委譲することができる(245条の解説参照)。なお、この分野はまだ特定されていないため、第1審裁判所の新しい権限は実体性に欠けるが、ニース条約第12宣言に従い、同条約の発効後、速やかに事物管轄が特定されるとすれば、第1審裁判所も先行判断を下すことができるうようになろう。従来、両裁判所間の管轄権配分は、訴えがいわゆる憲法上の問題を含んでいるかどうかを基準にしてなされてきたが、これは今後も踏襲されると考えられる(EC裁判所規程第51参照)。それゆえ、同基準に従い、現在、第1審裁判所に管轄権が与えられている分野において(例えば、EC・職員間の紛争や知的所有権に関する紛争)、新たな権限行使が認められることになろう。

 新第225条第3項の規定より、第1審裁判所の先行判断を不服として、EC裁判所に控訴することは認められないと解される。他方、第1審裁判所がEC法の統一または一貫性に影響を及ぼ しうる原則的な判断が必要と考える場合には、EC裁判所に判断を求めることができる(新第225条第3項第2款)。この手続については、以下の点が重要である。

 

@   EC裁判所への判断申立ての要件である「EC法の統一または一貫性に影響を及ぼしうる原則的判断」の内容は必ずしも明らかではないが、これは、第1審裁判所の判断が、その管轄分野以外にも影響を及ぼす場合、すなわち、EC裁判所の管轄事項にも関わる判断や、同裁判所の判例の修正を余儀なくする判断と捉えることができよう。要するに、EC条約新第225条第3項第2款は、ECの統一または一貫性に影響を及ぼしうる原則的判断と定めているが、従来の実務(もっとも、先行判断手続は含まれない)や両裁判所間の役割の違いを考慮すると、実際には、両者の判例法(および第1審裁判所の複数の裁判部の判例法)の統一または一貫性に影響を及ぼしうる判断が問題になり、これは、EC裁判所によって判示されると考えることができよう。 

A これまで提起されたことがない問題(例えば、新たに設けられた規定に関する問題)に対する判断の多くは、原則的判断に当たると考えられるが、もっとも、EC条約新第225条第3項第2款は、EC法の統一または一貫性に影響を及ぼしうる原則的判断と定めているため、そのような影響が生じないときは、新しい問題であれ、第1審裁判所は判示することができよう。このように解さないならば、同裁判所に先行判断権限を与える意義が減殺される。

B 第2款によれば、第1審裁判所は職権でEC裁判所に判断を求めることができるmay/peut/kann)のみで、これは義務ではない。

 

ところで、第1審裁判所がEC裁判所に判断を求めず、自ら判示する場合であれ、EC法の統一または一貫性に重大な危険性が存するときは、例外的に、EC裁判所によって審査されうる。この審査手続については、EC裁判所規程の中で定められるが(同第3款)、その内容は、前述した司法小委員会の判断の(再)審査手続と基本的に異ならない(第225条第2項の解説参照)。なお、ニース条約第15宣言は、これは「緊急手続」(emergency procedure)によって行われると定める。これは、手続の大幅な遅延回避を目的としているが、同手続の詳細は不明である。




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