各国は独自の抵触規範を設けているが(こちらを参照)、我が国は「法の適用に関する通則法」(「適用通則法」)という名称の国際私法を制定している[4]。同法は平成18年6月に公布され、19年1月より施行されているが、それ以前は、「法例」という名称の法律が適用されていた。これは一般法律に通ずる例則という意味である[5]。
前述したように、各国は独自の国際私法(抵触規範)を制定しているが、我が国の国際私法(従来は「法例」、現行法は「適用通則法」)は、我が国の裁判所が管轄権を有する場合に適用される。例えば、日本人が海外出張中、事故にあい死亡したため、遺族が加害者に損害賠償を求める訴えを提起する場合、日本の裁判所がこの事件を扱いうるか、それとも、事故地の裁判所が判断を下すべきかといった問題が生じるが、日本の裁判所に管轄権が与えられる場合に「適用通則法」は適用される。なお、裁判所の管轄については「国際民事訴訟法」の授業で扱い、「国際私法」の授業では、日本で裁判が行われることを前提にして講義する。
法の適用に関する通則法(適用通則法)は全43条からなり、総論(第38条~第42条)と各論(第4条~第37条、第43条)に分けることができる。個々の法律関係について定める各論の諸規定は、民法典の諸規定と同じように配置されている。
婚姻については、① 成立要件(第24条第1項)、② 方式(第24条第2項、第3項)、③ 効力(第25条)、④ 夫婦財産制(第26条)に分けて規定している。 例えば、婚姻の成立要件は、各当事者の本国法による(第24条第1項)。つまり、当事者ごとに準拠法が決定される。
これに対し、婚姻の効力は、以下のように、夫と妻に共通する法令が準拠法となる(第25条)。
上掲の行為能力や婚姻の成立要件(婚姻適齢)のケースでは、当事者の国籍 を基準にして準拠法が指定されているが、このような準拠法を決定する要素を連結点(詳しくは こちら)と呼ぶ。 ある特定の法律関係の準拠法をどのように決定するかは、各国の立法政策の問題であるが(つまり、各国は独自の国際私法を制定している)、渉外事件に最も密接に関係する地の法令を準拠法にすべきということが国際私法上の最も重要な原則の一つとなっている。
適用通則法は全43条からなるが、これらの規定によって全ての渉外的法律関係の準拠法が決定されるとは限らない。なぜなら、例えば、婚約など、我が国の法令(実質私法)が定めていない制度(ないしは法律関係)については、適用通則法にも規定が存在しないからである[7]。
他方、我が国の実質法には存在するが、抵触規定は設けられていない制度(ないし法律関係)もある。例えば、権利能力、法人、代理、信託などである。 抵触規定が存在しないとき(抵触法の欠缺)、法廷地法、つまり、内国法によるべきとする見解も主張されているが[8]、国際私法上、内国法と外国法を平等に扱うことが望ましいため(内外法の平等〔参照〕)、この見解は適切ではない。類推適用すべき規範があればそれを類推適用し[9]、このような規範が存在しないときは、適用通則法内のその他の規定に照らし、また、判例・学説または諸外国の国際私法規定を参考にして、準拠法を決定すべきである。 [2] 実体法の例としては、民法や商法など、また手続法の例としては、民事訴訟法や破産法などが挙げられる。 [3] なお、適用通則法第7条など、当事者が準拠法を定めることができるとする場合もあるが、この場合であれ、第7条の適用そのものを当事者が否認することはできない。なぜなら、第7条を含めた国際私法規定は強行法規であるためである。 [4] その他、「遺言の方式の準拠法に関する法律」や「扶養義務の準拠法に関する法律」などの特別法も制定されている。 [5] 「法例」の名称の由来について、道垣内「ポイント国際私法総論」14頁以下参照。 [6] 削除 [7] なお、我が国の民法上、非嫡出親子関係の成立には、事実主義(出生の事実により当然に親子関係が成立する)ではなく、認知主義(親の認知によって始めて非嫡出親子関係が成立する)が適用されるため、旧法例は認知に関してのみ規定していたが、現行法例は、事実主義の場合を含めて規定している(第18条第1項)。これは、例えば、事実主義は多くの国で認められていることや子の利益にかなうことなどの理由に基づく。 [8] 内国法を優先させるという考え方は、内国利益の維持や法適用の利便性といった観点から、適用通則法においても採用されている(例、第4条第2項、第22条第1項参照)。 [9] 婚約の例でいえば、婚姻に関する規定(第24条および第25条)を類推適用するのが妥当かどうか検討する。 |
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