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  国際民事訴訟法の基礎知識 ― 国際裁判管轄

1) 我が国が「法の適用に関する通則法」を制定しているように、各国は独自の国際私法(国内法)を設けている。

         問題:ドイツの国際私法の名称を答えなさい。


 婚姻の成立について、適用通則法とEBGBGは次のように定める。
 


 我が国の国際私法
(適用通則法第24条第1項)
 ドイツの国際私法
(EGBGB第13条)

婚姻の成立


各当事者の本国法


各当事者の本国法(第1項)


本国法によれば婚姻が成立しえないとき、以下の全ての要件が満たされれば、ドイツ法(第2項)

@一方の当事者がドイツ国内に常居所を有するか、またはドイツ人であること

A婚姻を成立させるため両当事者はとるべきと解される措置を実際にとっていること

B婚姻の成立を認めないことが婚姻の自由に反すること

  第2項は、婚姻の成立に「非友好的な」本国法の適用を排除し、ドイツ法によるとしているが、これはドイツ連邦憲法裁判所の決定を踏まえ設けられた特別な公序規定である(公序規定については こちら)。

Spanierbeschluss, BVerfGE 31, 58 = NJW 1971, 2121




 上の表のように、各国の国際私法の内容が異なるとき、どの国の国際私法によるかが重要になる。

 一般に、一国の裁判所は自国の法を適用するため(ただし、外国法が準拠法になるときは、この限りではない)、裁判所は自国の国際私法に従い準拠法を決定する。つまり、法廷地の国際私法が適用される。それでは、法廷地はどのようにして決定されるか。


(問題)

 マレーシア領土内で飛行機が墜落し、乗っていた日本人サラリーマンが死亡した。同人の遺族(日本に住む日本人)が訴訟を起こし、航空会社に損害賠償の支払い求める場合、どの国の裁判所に訴えを提起すべきか。墜落地であるマレーシアの裁判所か、遺族の住む日本の裁判所か、航空会社の本社所在地の裁判所か、またはそれ以外の裁判所か(このケースについて、詳しくは こちら)。


 民事裁判手続の重要事項は「民事訴訟法」において定められている。訴えはどの地域の裁判所によって審理されるか(土地管轄)という問題も、民事訴訟法内で規定されている。例えば、同法第4条第1項・第2項によれば、訴えは被告の住所地の裁判所の担当となる(詳しくは こちら)。また、財産権上の訴えについては、義務履行地の裁判所にも管轄権が与えられるため(第5条第1号、詳しくは こちら)、原告は被告の住所地の裁判所か、義務履行地の裁判所のいずれか一方に訴えを提起することができる。ただし、二重に訴えること(二重起訴) は禁止される(第142条)。

 もっとも、これらの規定(民事訴訟法第4条以下)は国内裁判所間の管轄配分を想定して定めており、国際裁判管轄について(直接的に)定めているわけではないと解されている参照。また、その他の国内法も一般に、国際裁判管轄について規定していない(その例外はこちら)。
そのため、渉外事件の裁判管轄(国際裁判管轄)はどのようにして決定されるかという問題が生じる 。

 この点について、最高裁は、法規範の欠缺は条理によって補うべきとする。また、この条理の内容は、当事者間の公平や裁判の適正・迅速性を考慮して決定するのが相当であるとする一方で、民事訴訟法の規定を参照しながら、我が国が国際裁判管轄を有するかどうか判断している 。なお、特段の事情が認められる場合には、例外が認められるとしている [1]






 これらの判例法理を踏まえ、2011年の民事訴訟法改正では、我が国の裁判所の管轄権に関する規定が設けられた(第3条の2〜第3条の12)。新規定によると、@被告の住所地が日本国内にあるとき(第3条の21項)、また、法人が被告である場合は、主たる事務所または営業所が日本国内にあるとき(第3項)、我が国の裁判所は管轄権を有する。

 

  財産権上の訴えについては、例えば、請求の目的が日本国内にあるとき、我が国の裁判所は管轄権を有する(第3条の3第3号)。

 


 不法行為に関する訴えについては、不法行為地が日本国内にあるとき、我が国の裁判所の管轄権を持つ。ただし、日本国内における結果の発生が通常、予見できないときは、我が国の裁判所は管轄権を持たない(第3条の3第8号)。


(2) なお、以下のような一般原則も広く認められている。

@ 被告の住所地

 訴えは被告の管轄裁判所に提起する(たとえば民訴第4条)。 例えば、被告が日本国内に住所を有するとき、日本の裁判所は管轄権を有する。離婚事件に関してもこれが妥当するが、最高裁は、原告が遺棄された場合や被告が行方不明な場合において、原告の住所地国の裁判管轄を認めている[2]


A 不法行為地や財産所在地

 不法行為に基づく訴えや、不動産を目的とした訴訟に関しては、不法行為地および不動産所在地の裁判所に管轄権が認められる。

B 子の住所地

 親子関係に関する訴えは、子の利益の保護という観点から、子の住所地の裁判所が管轄権を有する。

(3) 適用通則法第5条(法例第4条第2項 )は、所定の要件が満たされれば、国内裁判所は、外国人に対して後見開始の審判[3]をなすことができると定める(成年後見に関する裁判管轄)。 つまり、(準拠法を指定するだけではなく)国際裁判管轄についても規定している(詳しくは こちら)。同様に、失踪宣告の管轄権についても、適用通則法第6条(法例第6条 )で定められている(詳しくは こちら)。


      国際民事訴訟法について 詳しくは こちら

 




[1]      最判昭和561016日(マレーシア航空事件)民事訴訟法判例百選I 〔新法対応補正版〕40頁以下(渡辺)および渉外判例百選3〕97頁以下(高桑) 、最判平成9年11月11日、民集51巻10号4055頁=ジュリスト1133号182頁。 くわしくは こちら

[2]      最判昭和39325日・民事訴訟法判例百選I 〔新法対応補正版〕42頁以下(貝瀬)参照。その他の親族事件の裁判管轄について、親権者の指定・変更に関して、静岡家裁審判昭和62527日・渉外判例百選3〕212頁以下(岡野)または養子縁組に関して、千葉河西市川出張所審判平成元年623日・前掲渉外判例百選216頁以下(不破)参照。

[3]      旧法例第4条第2項は、禁治産宣告について定めていた。


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