1. 裁判管轄
1.1. はじめに
我が国には、最高裁判所、高等裁判所、地方裁判所、家庭裁判所、簡易裁判所という5種類の裁判所が設けられている(憲法第76条第1項、裁判所法第2条第1項参照)。最高裁判所は東京都千代田区に1つのみ設置されているが、それ以外の下級裁判所は全国に多数設置されている。
高等裁判所 |
全国に8本庁 |
地方裁判所と家庭裁判所 |
北海道に4ヶ所、各都府県庁所在地に1ヶ所ずつ計50本庁 |
簡易裁判所 |
全国に438庁 |
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このように国内に多数の裁判所があるため、原告はどの地の裁判所に訴えを提起すればよいか、また、裁判所間においては職務分担が重要となる。裁判所間の分担に関する定めを
裁判管轄 と呼び、また、それに従って、各裁判所が行使しうる裁判権の範囲を 管轄権 と言う。
1.2. 管轄の種類
裁判所の管轄は以下のように分類しうる。
(1) 職分管轄
裁判所は異なる職務を行うが、その配分に関する定めを職分管轄と呼ぶ。例えば、判決手続は受訴裁判所が行い、執行手続は執行裁判所の職分となる。
審級管轄も職分管轄の一種とされる。第1審は、訴額に応じ、簡易裁判所と地方裁判所に分かれる。簡易裁判所が第1審の場合は、地方裁判所が控訴審裁判所、高等裁判所が上告審裁判所となる。
(2) 事物管轄
簡易裁判所と地方裁判所の職務は事件の内容に応じ配分されるが、事件の内容を基準にして定まる管轄を事物管轄と呼ぶ。
両裁判所の管轄は以下の通りである。
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訴額が140万円以下の訴えは簡易裁判所の管轄に属し、それを超える訴えは地方裁判所の管轄に属す(裁判所法第33条第1項および第24条第1号参照)。ただし、訴額が140万円以下の不動産関係訴訟については、両裁判所とも管轄権を有する(競合管轄)。
・不動動産関係訴訟の例
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不動産上の物権(所有権、抵当権など)、不動産の使用収益を目的とする債権の確定訴訟
ただし、賃料の支払いを求めるといった金銭訴訟は含まれない。
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A |
不動産の引渡・明渡訴訟、不動産上の物権に基づく妨害排除、予防請求訴訟
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B |
相隣関係訴訟、境界確定訴訟
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C |
不動産に関する共有物分割訴訟
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D |
不動産登記に関する訴訟 |
※ @で述べたように、不動産にかかる法律行為(不動産の売買、賃貸借など)を原因とする金銭訴訟(不動産の売買代金の支払いを求める訴え)は、不動産関係訴訟に含まれない。
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・
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非財産的請求や訴額の算定が困難な訴えは、地方裁判所の管轄とする(民事訴訟法第8条第2項)。
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(3) 土地管轄
事物管轄により、例えば、地方裁判所が第1審裁判所に決まると、次は、国内のどの地方裁判所に訴えを提起すればよいか検討する必要がある。裁判所間の管轄区域(地理的な職務担当範囲)は予め定められており、例えば、東京都内は東京地方裁判所、埼玉県内はさいたま地方裁判所の管轄となる。
民事訴訟法第4条によれば、被告の住所地を管轄する裁判所に訴えを提起することができる。そのため、被告の住所地が東京都内にあれば、東京地方裁判所に提訴しうる。このように、同種の裁判権を行使しうる裁判所間の地理的な職務分担に関する定めを
土地管轄 と呼ぶ。また、土地管轄を決定するための基準(例えば、前述した被告の住所地)を 裁判籍 と言う。
@ 普通裁判籍
前述したように、民事訴訟法第4条は、被告の住所地を管轄する裁判所に管轄権を与え、これを原則的な管轄としている。これは、被告の住所地の裁判所に出頭しなければならないとすると、原告は慎重に行動し、むやみに訴えることを慎み(濫訴の防止)、また、自らの住所地で裁判するならば、被告は自らをより良く防御しうる(被告の防御権の保護)との考えに基づいている(被告の住所または居所を普通裁判籍にする理由)。
普通裁判籍について、詳しくは こちら
A 特別裁判籍
被告の住所地を管轄する裁判所への提訴を原則とする点で、被告の住所地を普通裁判籍 と呼ぶが、民事訴訟法は以下の特別裁判籍を認めており、それに基づき決定される裁判所に提訴することも認められるとしている(第5条以下参照)。つまり、受訴裁判所訴としては複数の裁判所が考えられ、その内のどの裁判所に提起するかは原告の判断に委ねられる(なお、同一の訴えを複数の裁判所に提訴することは禁止される(二重起訴の禁止)。
財産権上の訴え |
・・・ |
こちらも参照
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事務所または営業所における業務に関する訴え
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・・・ |
当該事務所または営業所の所在地を管轄する裁判所(第5条第5号) |
不法行為に関する訴え |
・・・ |
不法行為地を管轄する裁判所(第5条第9号) |
特別裁判籍について、詳しくは こちら
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