EUは、加盟国より与えられた権限のみを、基本諸条約が定める条件に従い行使しうる(個別的授権の原則、EU条約第5条第1項第1文および第2項)。例えば、租税の分野では、間接税に関する権限は与えられているが、直接税に関する権限は与えられていない(EUの機能に関する条約第113条および第114条第2項参照)。したがって、EUは、間接税に関する法律のみを制定しうる。ただし、加盟国の間接税を統一する権限は与えられておらず、EUは、これを調整しうるに過ぎない。
補完性の原則の趣旨は、EUの権限が肥大化することを防ぐことにあり、EU(EC)にますます多くの権限が委譲されることになった マーストリヒト条約 の制定に際し導入された。中央政府による政策決定を抑制し、地方の自主性や裁量権を尊重する原則の精神は連邦国家の基本原則の一つにあたるが、連邦国家体制をとるドイツのイニシアチブに基づき、また、イギリスの強い支持を受け、EU法体系(EC法体系)にも取り入れられた。 詳しくは後述するように、補完性の原則(EC条約第5条第2項〔旧第3b条第2項〕)は、アムステルダム条約 や、未発効の 欧州憲法条約、また、2009年12月に発効した リスボン条約 によって補充されている。
補完性の原則の適用に際しては、以下の点を検討しなければならない。 |
(1) | ECに権限が完全に委譲されていない案件であるか(参照) 補完性の原則は、EUに権限が完全に委譲されていない政策事項(参照)限り適用される。つまり、加盟国がEUに権限を完全に委譲した結果、加盟国は独自の政策を実施しえない案件に関しては、補完性の原則は適用されない。なお、加盟国からEUへの権限委譲やEUの権限は第1次法内で定められており(参照)、補完性の原則に基づき、EUに新たな権限が委譲されたり、または、ECが権限を失うわけではない。つまり、補完性の原則は、権限配分に関する原則ではなく、ECの権限行使について定める原則である。 アムステルダム条約(厳密には、同条約に添付されている議定書 = EC条約附属第30議定書)は、補完性の原則のダイナミックな性質について触れている。つまり、ECの活動範囲は、必要性に応じて拡大したり、制限される(Ziffer 3)。ただし、変わりうるのはECの活動範囲であり、権限ではない。 つまり、予め明確に規定された権限の範囲内で、ECの活動分野は、必要に応じ、変化しうる。
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(2) | 加盟国が実施するのでは、EUの政策目的が十分に達成されないこと |
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(3) |
措置の規模または効果の面で、EUが実施する方がより良い成果が得られると考えられること
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(4) |
EUの措置は必要な範囲内に限定されているか(比例性の原則) |
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EC裁判所の判例法と補完性の原則 |
当初、補完性の原則(EC条約第5条第2項)が裁判所による法令審査の基準になるかどうか争われていた。ECJも、補完性の原則に照らした第2次法の審査に消極的であったが、近時は詳細に検討している(Case
C-491/01, British American Tabacco [2002] ECJ I-11453)。また、司法審査を実効的にするため、立法者は、第2次法の前文において、補完性の原則の適用に関する見解を示さなければならないとされている(Case
C-233/94, Einlagesicherung [1997] I-2405; Case C-377/98, Biopatent-RL
[2001] ECJ I-7079)。 |
国内議会による統制 |
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(参照) |
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補完性および比例性の原則の適用に関する議定書(アムステルダム条約附属議定書 = EC条約附属第30議定書) |
・ | EUにおける国内裁判所の役割に関する議定書(アムステルダム条約附属議定書 = EU条約附属第9議定書) |
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・ | 従来の補完性の原則 |
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・ | Subsidiarity Monitoring Network of the Committee of the Regions |
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