(1) 総許容漁獲量(Total Allowance Catches - TAC)の決定 前述したように、魚種や海洋資源の保存・保護に関し、ECには排他的権限が与えられているが、当初、理事会は所定の期限までに必要な法令を制定しなかったため、EC裁判所は、EC(当時のEEC)の権限の排他性にもかかわらず、欧州委員会と協力しながら、共通の利益のために行動することを加盟国に認めた(Case
804/79, Commission v. UK [1981] ECR 1981, 1045, paras.
28-32)。なお、理事会によって規則(Regulation 170/83, OJ 19883, No. L 24,
1)が制定されたのは1983年のことである。
割当量の遵守に関する調査や規制は、加盟国(旗国)によって行われる(規則 2371/2002 第11条〔補完性の原則〕)。割当量違反が存する場合、加盟国(旗国)は刑事・行政手続を開始しなければならず(Case C-52/95 Commission v. France [1995] ECR I-4443, paras. 34 et seq.;
Joined Cases C-418/00 and C-419/00 Commission v. France
[2002] ECR I-3969, paras. 62 et
seq.)、これを放置したり、適時に適切な措置を講じない場合、加盟国(旗国)はEC法に違反することになり、割当量の交換が可能であるという事実のみをもって、この違反は正当化されない(Case
C-62/89 Commission v. France [1990] ECR I-925)。
(2) 回復計画(recovery plans)と管理計画(managements plans)の策定
生存が脅かされている魚種に関し、EU理事会は回復計画を策定し、その回復に必要な措置を決定しなければならない(第5条)。他方、その他の魚種に関し、理事会は管理計画を設けることができる(第6条)。上述した年間総許容漁獲量(TAC)の決定に際しては、これらの計画が参照される。
上述した措置は、いずれも漁獲量を制限するものであるが、古くからECは、漁船の数、大きさ、稼働力、また、操業時間を規制している(第11条以下)。漁獲量の制限に貢献する、これらの措置は、主に加盟国によって決定されるが、廃船や操業規制といった構造改革の影響を和らげるため、ヨーロッパ漁業基金(European
Fisheries Fund 〔EFF〕)が設けられている。同基金の予算は、EUの財政計画と同様に、7年単位で組まれているが、2007年〜2013年の期間には、38億5000ユーロが計上されている。なお、それ以前(2000年〜2006年)は別の財政支援制度(Financial
Instrument for Fisheries Guidance 〔FIFG〕)が存在したが、2007年より上掲の基金に変更されている。
・稚魚や小魚を保護するための魚網の規格
上掲の量的・技術的規制の監視は、主として加盟国によって行われ、加盟国は自国の領海および港湾にある漁船の監視が義務付けられている。なお、これは漁船の船籍を問わない(Case
C-9/89 Spain v. Council [1990] ECR I-1383, para.
10)。つまり、加盟国は、自国港での積み下ろしや自国の領海における積み替えを監視し、毎月、欧州委員会に報告しなければならない(第23条)。同委員会は加盟国の監視をコントロールするとともに(「監視の監視」)また、欧州委員会も船舶への立入調査や陸上での調査を行うことができ、必要な情報へのアクセスが保障されなければならない(第27条)。なお、漁船は、さらに旗国の管理下に置かれる。
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