E  U の 公 用 語

 加盟国の独自性と文化の多様性を尊重するEUは、全加盟国の公用語をEUの公用語としている。具体的には、ドイツ語、フランス語、イタリア語、オランダ語、英語、デンマーク語、ギリシャ語、スペイン語、ポルトガル語、スウェーデン語、フィンランド語、チェコ語、ハンガリー語、ポーランド語、スロバキア語、 エストニア語、リトアニア語、ラトビア語、マルタ語、スロベニア語である。2007年元旦にブルガリアとルーマニアが新規加盟したことに伴い、両国の公用語(ブルガリア語とルーマニア語)も追加されているが、これを機に、アイルランド語も公用語に加えられ、2007年元旦現在の公用語数は23である(参照)。なお、公用語数と加盟国数の数が一致していないのは、例えば、オーストリアはドイツ語を公用語としていることなどによる。



従来の公用語 2004年5月に追加
された公用語
2007年元旦に追加
された公用語

イツ語
フランス語
イタリア語
オランダ語
英語
デンマーク語
ギリシャ語
スペイン語
ポルトガル語
スウェーデン語
フィンランド語


チェコ語
ハンガリー語
ポーランド語
スロバキア語
エストニア語
リトアニア語
ラトビア語
マルタ語
スロベニア語



ブルガリア語
ルーマニア語
アイルランド語

   

リストマーク  東方拡大後の公用語 
 フランス語の重要性の低下

 
EU市民の外国語能力


  EUEC)の機関では、これらの言語の使用が認められるが、フランス語と英語の使用が一般的である。また、公式文書は全ての公用語で執筆される。なお、EU条約やEC条約は、上記の11カ国語と、アイルランド語で権威がある(EU条約53条、EC条約314条)。


 なお、2007年元旦、ブルガリアとルーマニアのEU加盟に伴い、欧州委員会には多言語政策を担当する委員のポストが新たに設けられ、ルーマニア出身の Leonard Orban 氏が任命されている(参照)。



 各国語版の設立条約やEC2次法の中には、必ずしも同義ではない規定がある。例えば、EC条約第20の英語版、仏語版、独語版は次のようになっている(斜体筆者)。

 

      Every citizen of the Union shall, in the territory of a third country in which the Member State of which he is a national is not represented, be entitled to protection by the diplomatic or consular authorities of any Member State, on the same conditions as the nationals of that State. Member States shall establish the necessary rules among themselves and start the international negotiations required to secure this protection.

Tout citoyen de l’Union beneficie, sur le territoire d’un pays tiers ou l’Etat membre dont il est ressortissant n’est pas represente, de la protection de la part des autorites diplomatiques et consulaires de tout Etat membre, dans les memes conditions que les nationaux de cet Etat. Les Etats membres etablissent entre eux les regles necessaires et engagent les negociations internationales requises en vue d’assurer cette protection.

Jeder Unionsburger geniest im Hoheitsgebiet eines dritten Landes, in dem der Mitgliedstaat, dessen Staatsangehorigkeit er besitzt, nicht vertreten ist, den diplomatischen und konsularischen Schutz eines jeden Mitgliedstaats unter denselben Bedingungen wie Staatsangehorige dieses Staates. Die Mitgliedstaaten vereinbaren die notwendigen Regeln und leiten die fur diesen Schutz erforderlichen internationalen Verhandlungen ein.

 

   すなわち、英語版や仏語版では「外交使節団または領事機関による保護」protection by the diplomatic or cunsular authorities/ protection de la part des autorites diplomatiques et consulairesと規定されているのに対し、独語版では「外交的保護または領事保護」diplomatischer und konsularischer Schutzとなっている。外交使節団による保護と外交的保護とは、内容的に必ずしも同一ではない。


(参照)

トーステン・シュタイン「外交的保護に関するEU条約規定について」ゲオルク・レス/トーステン・シュタイン(編著)『外交的保護とヨーロッパ法』(入稲福 智訳)(東信堂、近日公刊)

外交的保護・領事保護について

 

 もっとも、前述したように、これらの3言語によるはEC条約は権威があるとされている。その正確な内容は、規定の趣旨を考慮して判断する必要がある。なお、各国語版の内容に誤りがあったため(例えば、フランス語で起草された第2次法を自国語に翻訳する際に生じた誤り)、自らの権利ないし利益を適切に擁護することができなかったとして、個人がEC裁判所(厳密には、第1審裁判所)に訴えを提起することは許されない。




  EUに加盟していない日本の言語(日本語)は、EUの公式言語ではない。そのため、その条約・公式文書は日本語では書かれていないが、日本語に仮訳されているものがある。

 

(仮訳例) 三省堂「解説条約集」(第8版)393頁以下[EU条約]および396頁以下(EC条約)




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