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星

 
商 品 移 動 の 自 由

EC条約第23条〜第31条)
紙飛行機
  



   目 次
 
   はじめに
  (1) 関税同盟
  (2) 数量制限の禁止 

    ・ 例外


New リスボン条約体制は こちら


  は じ め に

 EC関税同盟 を基礎にして設立された(EC条約第23条第1項参照)。そのため、加盟国間の貿易に関税は課されないが (関税同盟について 詳しくは こちら、 これは商品移動の自由を実現する手段である。この自由を実効的に保障するため、EC内では、他の加盟国からの輸入に数量制限を設けることも禁止されている(第28条以下参照)。また、他の加盟国からの輸入品により高い租税を課すことや(第90条)、国による国内企業助成も禁じられている(第87条参照)。



関税同盟


 商品流通の自由化は、ECの諸政策の中で、最も重要な政策の一つにあたり、また、最も発展した政策の一つであるが、いまだに完全には実現していない。これは、消費税や商品の製造・販売・流通に関する国内法がまだ十分に調整されておらず、自由な移動を妨げる要因になっているからである。例えば、@A国では添加物の使用は認められているが、B国では認められていなかったり、AA国ではインターネットによる薬の販売が許されているが、B国では認められていない場合、A国で適法に製造された商品をB国へ自由に輸出することや、B国でも自由に販売することは阻害される。このような問題を解決するため、ECは加盟国法を調整するだけではなく、相互保障の原則(ある加盟国で適法に販売しうる物品は、他の加盟国においても適法に販売されうるという原則)を打ちたているが(参照)、ある加盟国の措置がEC法違反にあたらないか、判断が困難なケースも少なくない。そのため、かねてより、EC裁判所に多数の訴えが提起されているが参照)、商品の移動の自由に関するEC法は、同裁判所の一連の判決を通じ発展している。


 以下では、商品移動の自由を保障する制度・措置としての関税同盟と数量制限の禁止について説明する。



 (1) 関税同盟 (EC条約第23条〜27条)


     参考 関税同盟の定義については こちら


 前述したように、関税同盟はECの基礎にあたり、あらゆる物品の流通に適用されるが、以下の2つの要素からなっている(EC条約第23条第1項)。


加盟国間における関税やその他の同等の効果を持つ租税の禁止


 EEC条約第12条〜17条に基づき、加盟国は、EC内の取引にかかるあらゆる関税を撤廃した。同等の効果を持つ租税を新たに導入することも禁止されているため(第25条)、域内貿易に関しては、関税やそれに類する租税を賦課することは認められない。もっとも、EC条約は、「同等の効果を持つ」租税について定義しておらず、それが具体的に何を指すか明らかではない。そのため、ある具体的な措置がこれに該当し、禁止されるかどうかが争われることも少なくない。

 その解釈に争いが生じたときは、EC裁判所が最終的な判断を下すことになるが、商品移動の自由の重要性に鑑み、同裁判所は、この概念を広く捉えている。つまり、物品が加盟国間の国境を越えるために課される経済的な負担はすべて、「同等の効果を持つ」租税とみなされる。その名称、額、目的および効果は重要ではない。そのため、どのような形態であれ、また、国益の増強または国内製品を保護といった目的の有無にかかわらず、禁止される。

 例えば、統計、品質管理、衛生検査やライセンス取得などの目的で徴収される費用は、「同等の効果を持つ」租税にあたり、禁止される。また、徴収される金銭が、もっぱら国内製品を優遇するために用いられる場合も同様である。例えば、ドイツでは、食肉の販売を促進するために基金が設立され、その財源を補うために、国内産、国外産を問わず食肉検査料が徴収されていたが、同基金の恩恵にあずかるのは、もっぱら国内製品であるため、検査料の徴収はEC条約に違反する(ECJ  Case C-72/92 Scharbatke [1993] ECR I-5509)。

 もっとも、消費者の健康の保護といった一般的な目的ではなく、輸出入業者の個人的利益にかかる費用であれば、徴収することも認められる。ただし、その費用は不相応に高額であってはならない(比例性の原則)。なお、EC法上、検査が要求される場合は、相応の検査費の支払いを命じることも認められる。

 ところで、EC法は、加盟国が国内で販売される物品に租税(例えば、消費税)を課すことを禁止しているわけではない。そのため、他の加盟国から輸入され、国内で販売される物品にも税金を課すことができる。もっとも、輸入品の税率を引き上げるなど、輸入品を差別することは、EC条約第90条によって禁止される。これに対し、輸入品にのみ課税することは、前述した関税および同等の効果を有する租税の禁止に反するため、第23条および第25条に基づき、規制される。



リストマーク 二重課税の回避 リストマーク


 例えば、フランスからドイツにワインが輸出される場合、消費税は両方の国で徴収されるであろうか。この問題に関し、EC法はまだ整備されていないが、暫定措置として、輸出入業者の申告に基づき、加盟国の税務当局は輸出国における租税を免除している。つまり、前掲の例では、フランスでは租税が免除され、ドイツでのみ課されることになる。なお、この実務は、原則として、企業間(小企業は除く)の取引について適用されるが、中古車販売に関しては、個人間の取引にも適用される。これとは異なり、旅行者が物品を販売する場合には、輸出国でのみ課税される。





 ・共通関税の導入


 EC(EEC)は、GATT24条第2項の意義における「関税同盟」として設立され、これを基礎としている。全加盟国に共通するECの関税は第2次法の中で定められているが、この関税は、ECの対外的貿易についてのみ適用され、域内では、前述したように、関税やその他の同等の効果を持つ租税は禁止されている。

 第3国との貿易にかかる関税の導入や税率の決定に関する権限は、ECに完全に委譲されている。そのため、加盟国が単独で関税を導入したり、税率を変更することは許されない。関税率は、欧州委員会の提案を受け、EU理事会が特定多数決によって決定されるが(EC条約第26条)、実際に関税を徴収するのは、加盟国の役割である(参照)。徴収された関税は、ECの財源となる。

 EC外からの輸入品に課される関税(ECの共通関税)は、関税同盟の設立と同じ1968年に導入されているが、その当時、すべての加盟国はGATT(1947年のGATT)を締結しており、同協定に拘束されていた。ECは、加盟国のこの義務を継承し、GATTに従った形で共通関税を導入している。なお、EC自身も、GATT第24条第2項の規定に基づき、関税同盟として発足している。

 なお、GATTの交渉過程で関税率は引き下げられており、現在のECの関税(平均して商品価格の6〜8%)は、それが導入される前の国内関税より大幅に削減されている。


関税同盟





 (2) 数量制限の禁止 (EC条約第28条〜31条)


 @ 原則

 EC条約第28条は、他の加盟国からの輸入に数量制限を設けてはならないと定める。また、これと同等の効果を持つあらゆる措置も禁止している。同様に、第29条は、他の加盟国への輸出についても、数量制限やこれと同等の効果を持つ措置を禁止しているが、現在、他の加盟国への輸出が規制されることは、ほとんどない(その例外として、Case C-5/94 Hedley Lomas [1996] ECR I-2553)。他の加盟国からの輸入に関しても、数量制限は一般に廃止されているため、唯一、争われることがあるのは、例えば、消費者保護や環境保護を目的する国内措置が、数量制限と同等の効果を持つかどうかである。これを禁止するEC条約第28条(第29条も同様である)は 直接的効力 を有するため、私人(輸出入業者や消費者など)は、これらの規定を直接援用し、裁判所に提訴することができる。

 ところで、EC条約は「数量制限」について詳細に定義していないため、解釈に争いが生じることがあるが、EC裁判所は、その態様や程度を問わず、物品の輸出入や通過を禁ずるあらゆる措置が含まれると広く捉えている。また、「同等の効果を持つ措置」の概念も、直接的または間接的に、また、実際にまたは潜在的に域内取引を阻害することに適したあらゆる国内通商措置として、広く解している(Case 8/74 Dassonville [1974] ECR 837, para. 5)。そのため、 国内製品の保護を目的としているかどうかを問わず(つまり、外国産を差別するのではなく、国内産と外国産に平等に適用される措置であれ)、EC内の商品流通を妨げうる措置は規制の対象となる。これは、ある加盟国内で適法に製造され、流通過程におかれている商品は、他の加盟国内にも制限無く輸入されなれければならないとの理念に基づいている(本国法主義 (country of origine principle/Herkunftslandsprinzip)、Case 120/78 Casis de Dijon [1979] ECR 649, para. 14)。





リストマーク Dassonville 事件(Case 8/74 Dassonville [1974] ECR 837)

 
消費者保護(品質管理)の観点から、ベルギーでは、ウィスキーの輸入には原産地国が発行した証明書の提示が義務付けられていた。しかし、ある者(Dassonville)は、イギリス産スコッチ・ウィスキーをイギリスから直接輸入するのではなく、フランスで販売されているものを搬入しようとしたため、イギリスの関税当局が発行した証明書を取得することは困難で、実際に所持していなかった。そのため、ベルギー法に違反するとして刑事責任を問われることになったが、ルギーの国内裁判所は、証明書の提示は、EC条約第28条が禁止している「数量制限と同等の効果を持つ措置」に該当しないかという問題をEC裁判所に付託した。

 これを受け、EC裁判所は、「数量制限と同等の効果を持つ措置」とは、域内の通商を直接的または間接的、また、実際にまた潜在的に阻害するすべての国内措置が含まれると広く解釈した。また、産出国から直接、輸入する者を除き、製品証明書を提示することは困難であるとし、ベルギーの措置は、EC法上許されていない数量制限と同等の効果を持つ措置にあたると判断した。




 国内産の購入を奨励するキャンペーンも、数量制限と同様の効果を有する措置として規制の対象となる。なお、禁止されるのは加盟国ないし公的機関の措置であり、私人や商工会議所の自主的な措置は含まれないが、私人や商工会議所によるものであれ、それが加盟国の政策に基づき組織的に実施され、加盟国の措置とみなしうる場合には規制される(Case 249/81 Buy Irish [1982] ECR 4005, paras. 23-30l)。

 なお、個人の行為であれ、加盟国がこれを放置しているときは、その責任が問われる。例えば、フランスでは農家が、スペインやその他の加盟国からの果実・野菜の輸入を力づくで阻止していたが、フランス政府はこれを適切に取り締まっていないとして欧州委員会がEC裁判所に提訴したところ、同裁判所は、第28条は加盟国に商品の流通を阻害する措置を禁止しているだけではなく、その領土内において、流通の自由を確保するよう義務付けている(第10条参照)と判断した(Case C-265/95 Commission v France [1997] ECR I-6990)。

 ところで、Dassonville 判決 で示された緩やかな解釈(EC条約第28条が禁止する「数量制限と同等の効果」を持つ措置とは、直接的または間接的に、また、実際にまたは潜在的に域内取引を阻害することに適したあらゆる国内通商措置を指す)は、事後の判決で制限されることになった。つまり、指定された価格よりも安い価格で販売することを禁止する行為の適法性が問題になったケースで、他の加盟国の製品のみに適用されるのではなく、すべての製品に該当する販売形態に関する措置は、規制の対象にならないと判示した(Joined Cases C-267 and C-268/91 Keck [1993] ECR I-6097)。また、同様に、営業時間の規制(例えば、日曜日の営業禁止)も、商品移動の自由の対象にはならないと判断している(Joined Cases C-69 and C-258/93 Punto Casa [1994] ECR I-2355)。これに対し、商品の流通・販売を規制する措置は、数量制限およびそれと同等の効果を有する措置として規制されるものと解される。

  

 A  例外(商品移動の制限の正当化事由)

 前述した商品の移動(他の加盟国からの輸入だけではなく、輸出も含む)の自由は、絶対的に保障されなければならないわけではなく、EC条約第30条は、以下の理由に基づき、禁止または制限しうると定める。

・ 公序良俗

・ 安全や治安の維持

・ 人、動物および植物の健康および生命の保護

・ 国の芸術・考古文化財の保護

・ 産業・商業所有権の保護 参考 詳細は こちら



 なお、これらの理由に基づく措置であれ、他の加盟国の製品を恣意的に差別してはならず、また、加盟国間の通商を隠蔽して制限するものであってはならない(第30条第2文)。さらに、必要以上に取引を規制するものであってはならない(比例性の原則)。例えば、他の加盟国で販売が許可されている場合には、より厳しい基準を適用して規制することは(例えば、他の加盟国よりも、健康・消費者保護または環境保護水準を高くし、商品の流通を禁止すること)、比例性の原則に反するため、禁止されると解される。



リストマーク Reinheitsgebot 事件(Case 178/84 Reinheitsgebot [1987] ECR 1227)

 
ドイツでは、古くから(1560年)、ビールの原料が法律で規制されており、大麦麦芽、ホップ、酵母と水を除く、その他の原料を使用することが禁止されている。他方、他の加盟国ではこのような制限は設けられておらず、添加物を加えることも認めれるが、ドイツはこのようなビールの国内販売を禁止した。欧州委員会による提訴を受け、EC裁判所は、他国産ビールの流通を絶対的に禁止するドイツの措置(また、原料を規制する措置)は、消費者保護や健康保護のために必要とされる以上に商品の流通を規制するものであり、EC法に違反すると判断した。同裁判所によれば、添加物の含まれたビールを消費者が誤って購入する危険性は、原料表記という、軽い措置によって回避することができる。





リストマーク Chocolate 事件(Case C-12/00 Commission v Spain [2003] ECR I-459 and Case C-14/00 Commission v Spain [2003] ECR I-513)

 
スペインとイタリアでは、カカオ油ではなく、その他の植物油を用いてチョコレートを製造することを法律で禁止していた。これは、カカオを生産する農家を保護するための措置であるが、国内消費者の混乱を避けるため、植物油を用いて製造されたチョコレートを他の加盟国から輸入するときは、「チョコレート」として販売してはならず、商品名を「チョコレート代替品(chocolate substitute)」としなければならないとした。これは数量制限と「同等の効果を持つ措置」にあたるため、EC法に違反するとして欧州委員会がEC裁判所に提訴したところ、同裁判所は、EC法違反を認めた。また、スペインやイタリアで販売するため、製品のパッケージを変えることは業者にとって負担となるだけではなく、「チョコレート代替品」という表示は消費者にも良い印象を与えないと述べた。さらに、消費者保護は、原材料を正確に記載することでも達成しうるため、スペインやイタリアの措置は比例性の原則に反し、正当化されないと判断した。






リストマーク Dynamic Medien Vertriebs GmbH 事件(日本アニメ事件)(Case C-244/06 Dynamic Median Vertriebs GmbH v Avides Media AG [2008] ECR I-505)

 日本製のアニメ作品(DVDやビデオテープ)がイギリスに輸出されたが、イギリスのメディア規制当局(BBFC)は15歳以上の者にのみ視聴を許可した。この作品がイギリスからドイツへ輸出されることになったが、ドイツ当局の審査を受けていないため、ドイツでの販売は違法か争われることになった(訴えたのは、ドイツでの販売を試みる Avides Media AG のライバル企業である Dynamic Medien Vertriebs GmbH であった)。

 ドイツ国内裁判所からの付託に基づき、EC裁判所は、イギリス当局は審査しているが、ドイツ当局の審査がまだ済んでいないことを理由に、イギリスからの輸入を禁止することは、数量制限と「同等の効果を持つ措置」にあたると判断した。また、Keck 判決 で示された「販売形態」にあたる措置として許されるものではないしたが、未成年者保護の観点から商品移動の自由を制約することも許されると述べた。



 なお、上掲の例外事由 に関し、EC指令が制定され、国内法の調整がすでに行われている案件については、加盟国が上掲の例外事由を根拠に商品の移動を制限することは許されない(Case C-5/94 Hedley Lomas [1996] ECR I-2553)。




リストマーク Hedley Lomas 事件(Case C-5/94 Hedley Lomas [1996] ECR I-2553)

 1974年、EU理事会は指令を制定し、動物を畜殺する前の麻酔について、国内法を整備するよう加盟国に義務付けた。なお、この国内法違反の取締りや罰則について指令は定めていなかったため、その導入は加盟国の自主性に委ねられることになった。

 スペインは、この指令に基づき、国内法を整備したが、違反した業者に対する罰則は設けなかった。一部の業者の違反が明らかであるとして、イギリス政府は数年にわたり、スペインへの羊の輸出を許可しなかったが、この措置の法的根拠として、イギリス政府は、EEC条約第36条(EC条約第30条)が動物保護がを理由に商品移動の自由を規制を認めていることを指摘した。

 Hedley Lomas はスペインへ羊を輸出しようとしたが、イギリス当局によって許可されなかったため、その違法性を争い国内裁判所に提訴した。同裁判所によって、EC裁判所に先行判断が求められることになったが、EC裁判所は、すでにEU理事会指令が制定され、動物保護について国内法の調整が行われている場合には、加盟国はEEC条約第36条(EC条約第30条)が掲げる動物保護を理由に、商品の移動を規制することは許されないと判断した。また、確かに、指令は罰則について定めていないが、加盟国はEC法の実効性確保に必要な措置を講じなければならないこと、さらに、他の加盟国はそれを信頼すべきであり、一方的な対抗措置は許されないとした(paras. 18-20)。

 なお、本件では、他の加盟国からの輸入ではなく、輸出が問題になっている。また、数量制限ではなく、輸出そのものが禁止されているが、EC裁判所は、これもEEC条約第34条(EC条約第29条)の意味における数量制限にあたると解している(para. 17)。





 B 商品移動の自由の内在的制約

 前述したように、EC条約第30条は、商品の移動を制限しうる事由を列挙しているが、その他に、内在的制約が存在することがEC裁判所によって明らかにされている(Case 120/78 Cassis de Dijon [1979] ECR 649)。つまり、公益保護という重大な理由によって、商品の移動の自由は本質的に制約される。例えば、商品の移動の自由は、環境保護(Case 302/86 Pfandflaschenregelung [1988] ECR 4607)、実効的な税調査の実施、公正な競争の維持、消費者保護、メディアの多様性の維持などの重大な理由に優先せず、制約を受ける。



リストマーク Cassis de Dijon 事件(Case 120/78 Cassis de Dijon [1979] ECR 649)

 ドイツ法によれば、ブランデーは、アルコール度が30%以上でなければならず、また、フルーツ・リキュールは25%以上でなければならなかった。そのため、15〜20%程度のフランス・ディジョン産リキュール(Cassis de Dijon)は、ドイツ国内における販売が認められなかった。

 EC裁判所は、このような商品移動の制限は、EC条約第30条に基づき正当化されるかどうかについて検討する前に、そもそも商品移動の自由には内在的な制約が存在することを指摘し、以下のように述べた。つまり、まだEC法が制定されていない案件について、加盟国は、EC法上認められている公益保護の観点から、商品の移動を制限しうる。特に、実効的な税調査、健康保護、公正な競争、消費者保護の観点から必要な場合は、商品の移動を制限することができる。ただし、他の加盟国産の物品を差別するような行為は許されない。

 このような判断に基づき、EC裁判所は、問題の国内措置は、アルコール依存症を防ぐためのものとされるが、アルコール度数の低い酒類も広く販売されていることから正当化されないと述べた。また、度数の低いリキュールは比較的安価であるため、市場競争の公正を害するかという点については、ラベル表示を適切に行えばよいとの見解を示した。

 つまり、EC裁判所は、商品の移動の自由は健康保護の要請に優先せず、この重大な公益によって制約されることを明らかにしているが、ドイツの措置はこのような重大な公益を保護するためのものではないと判断している。また、判旨は、他の加盟国で適法に製造され、流通過程におかれている商品は、他の加盟国内でも制限無く販売されなれければならないとの理念に基づいている(本国法主義 (country of origine principle / Herkunftslandsprinzip)、Case 120/78 Casis de Dijon [1979] ECR 649, para. 14)。




 上掲の判決からも読み取れるように、内在的制約は、他国産を差別しない場合に認められるが、他国からのゴミの搬入を禁止することが許されるかどうかが問題になったケースにおいて、EC裁判所は、例外的に、差別的行為も許されると判断した(Case C-2/90 Abfallimport [1992] ECR I-4431, paras. 33 et al)。

 なお、重大な公益保護に基づく措置であれ、商品の移動を必要以上に制限するものであってはならない(比例性の原則)。
 



リストマーク Radlberger and Spitz 事件(ペットボトル事件)(Case C-309/02 Radlberger and Spitz [2004] ECR I-11763)

 ドイツは、環境保護の観点から、ペットボトル飲料を販売するときは、消費者から預かり金(ボトル代、デポジット)を徴収する制度を導入したが、特定のリサイクル制度に参加する製造業者については、これを免除した。他方、オーストリアを始めとする他の加盟国では、預かり金(ボトル代、デポジット)を付けてペットボトルを販売・回収することは普及していなかった。そのため、オーストリアの業者が、ドイツの措置は商品の移動の自由を制限する(預かり金の徴収は、オーストリアからドイツへの輸出を阻害する)として訴えたところ、EC裁判所も、数量制限と「同等の効果を持つ措置」にあたると判断した。他方、環境保護の観点から、ドイツの措置は正当化されうるとしたが、その場合であれ、必要以上に制限してはならないとした。また、新しい制度への移行に十分な時間が与えられ、他の加盟国の業者もドイツのリサイクル制度を十分に利用しうるようでなければならないとした。





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