4. 制裁措置の発動手続
マーストリヒト条約に基づき発足したEUは、@従来のEC、A共通外交・安全保障政策、また、B刑事に関する警察司法協力の3本柱構造からなるが(詳しくは
こちら)、経済制裁は、まず、第2の柱の分野で基本方針が決定され、それに基づき、具体的な措置を発動する権限がECに与えられる。つまり、第2の柱の分野において「共通の立場」ないし「共通の行動」が採択され(EU条約第14条、第15条参照)、それに基づき、第1の柱の分野において具体策が講じられる(EC条約第60条及び第301条参照)。
なお、安保理決議が輸出入の禁止や資金凍結だけではなく、テロリストの引渡しや各国の司法制度の協力ないし強化についても定めているときは、第3の柱の規定(EU条約第34条)をも同時に援用し、共通の立場が採択される。
立法手続について、こちら も参照
この共通の立場は執行力を有さないため、執行規則(第2次法)の制定が必要になるが、安保理決議が国連加盟国に義務付けていること、例えば、第3国や、第3国と密接な関係を持つ個人に対する経済制裁は、ECの管轄事項に属する。そのため、EC条約第60条または第301条 に従い、EU理事会は多数の 規則(regulations) を制定している。これに対し、テロ捜査や容疑者の訴追協力など、ECの管轄に属しないことに関しては、ECは第2次法を制定することができない。
第1章1で挙げた安保理決議 は、すべてEU・ECによって実施されている。なお、安保理決議それ自体は、加盟国内で直接的に適用されないが、それを実施するためにECが制定した規則は、EU加盟国内で直接的に適用される
。例えば、アイランドにおける両法令の適用が問題になったケースで、安保理決議 (Resolution 820 (1993)) はアイルランドの国内法となるわけではないが、同決議の実施にかかるEC規則(Regulation
990/93)は直接的に適用されることが指摘されている。
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