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2. 訴 え の 類 型


(1) 法令無効(ないし行政行為取消し)の訴え

 従来の実務上、最も頻繁に提起されており、また、個人の権利保護という観点から最も重要なのは、欧州委員会やEU理事会の規則(ないし措置)の無効宣言を求める訴えである。なお、委員会の「規則」は、行政措置に相当すると解されるが、理事会が制定する「規則」は、法律としての性質を有している。

EC条約第230条第4項は、国際法であるEC法(第2次法)の有効性を争い、EC裁判所に提訴する権限を個人に与えているが、後述するように原告適格は制限されている。訴えの理由、すなわち第2次法の無効を裏付ける事由は同第2項に列記されているが、ダンピング防止政策の分野では、重要な手続規定違反(特に、理由付け義務違反や行政手続違反)の有無が問題になる( 司法審査の対象について)。原告の主張が正当と認められるとき、裁判所は共同体法を無効と宣言しなければならない(第231条第1項、原告適格について、後述3参照)。この無効宣言に基づき、問題のEC2次法は、制定時に遡り、また、万人に対して無効となるが、裁判所はこれを制限することができる(第231条第2 無効判決の効果)。


(2) 不作為違法確認の訴え

 この他に、@ダンピング調査手続の申請があったにもかかわらず、欧州委員会が調査を開始しなかった場合や、A調査の結果、欧州委員会は保護措置が必要であるとの結論に至り、確定措置の発動を理事会に提案したものの、理事会によって否決され、保護措置が講じられなかった場合には、諸機関を被告として不作為違法確認の訴えを提起しうる(EC条約第232条)。もっとも、ダンピング調査手続は、最長でも、その開始から15ヵ月以内に終了しなければならない(基本規則第6条第9項)。訴訟が短期間に終了しないことを考慮すると、司法機関の助けを借り、委員会や理事会に作為を促すことは実効性に欠けると言えよう。


(3) 損害賠償請求の訴え

 ECのダンピング防止政策によって損害を被った者は、損害賠償を訴求しうるが(EC条約第288条第2項参照)、EC裁判所・ 第1審裁判所の判例法上、共同体の損害賠償責任は非常に限定されている。すなわち、損害は違法行為を直接の原因として生じたものでなければならないが、後述するように、裁判所が理事会や委員会の措置を違法と判断するケースは例外的である。また、単なる法令違反では足りず、個人の権利保護に資する上位法の重大な違反が存在しなければならない。それゆえ、単なる手続違反の場合には、損害賠償請求は容認されず、理事会や委員会の権限濫用が明白で、かつ、その程度が著しいことが必要になる。また、規則の理由付け義務(EC条約第253条) に違反があっても損害賠償は請求しえない。なお、損害の内容・ 程度およびECの違法行為と損害との因果関係を主張・証明する責任は原告にある。 



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