TOP      News   Profile    Topics    EU Law  Impressum          ゼミのページ


 
3.   個 人 の 提 訴 権

従来より、ダンピング防止政策の分野では、委員会や理事会の規則またはその他の措置の無効宣言を求める訴えが最も頻繁に提起されている。これらの訴えは、加盟国やECの機関も提起しうるが、従来は専ら個人によって提起されている。個人の権利保護という観点から最も重要なのはこの訴訟類型であるため、以下では、これに焦点を当てて説明するが、不作為違法確認の訴えに関しても同様に考えてよい。

EC条約上、個人の訴権は制限されている。すなわち、第230条第4項によれば、個人は、@自己に対して「決定」(decision)が発せられたときと、A一般人を対象にして「規則」(regulation)が、または、他者に対して「決定」が発せられたときであれ、それらが自らに直接的かつ個人的に関わる場合にのみ、EC裁判所(後述するように、厳密には、第1審裁判所)に提訴しうる(なお、「規則」や「決定」とは、第249条の意味における法令を指している)。それゆえ、個人は、万人に適用される法令の違法性を訴追 しえず、自らを名宛人にして発せられた「決定」か、または自らに直接的かつ個人的に関わる法令に関し訴えを提起しうるに過ぎない。このように個人の裁判所へのアクセスが制限されているのは、司法機関の負担を和らげるためである。すなわち、EC法は国内法よりもはるかに多くの者に影響を及ぼしうるため、潜在的原告は多数いると考えられるが、司法行政の効率性を維持するためには、訴えの制限が必要になる。なお、1994315日より、ダンピング防止規則に対する個人の訴えは、EC裁判所ではなく、第1審裁判所に提起されることになっており、法律問題についてのみ、EC裁判所に控訴することができる(EC条約第225条第1項およびEC裁判所規程第56条ないし第61条参照)。

ところで、ECのダンビング防止税は、欧州委員会の「規則」によって暫定的に課され、EU理事会の「規則」によって確定される。当初、EC裁判所は、この法令の形態をある程度、考慮していたが(Case 307/81, Alusuisse Italia v Council and Commission [1982] ECR 3463, paras. 8-9)、1991年に下された Extramet 判決以降、それは重視されていない(Case C-358/89, Extramet Industrie v Council [1991] ECR I-2501, paras. 13-18)。それに代わり、訴訟の対象となる措置が、自らに直接的かつ個人的に関わるかどうかが (直接的に)問われている。規則は加盟国においても直接的に(すなわち、その他の措置を必要とせず)適用されるため、「直接的」要件が問題になることはなく、「個人的」該当性の有無が争点になるが、EC裁判所の判例によれば、この要件は、原告が、その特性に鑑み、その他の者と区別され、かつ、法令の名宛人と同じ状況に置かれている場合に満たされることになる(Plaumann原則[Case 25/62, Plaumann [1963] ECR 211, 238])。ダンピング防止法の分野では、さらに以下のような基準が判例法上、確立している。すなわち、@委員会や理事会が採択した法令の中で原告の名前が挙げられているか、A同人がダンピング調査手続に関与していれば、「個人的」要件は満たされる(Joined Cases 239 and 275/82, Allied Corporation v Commission [1984] ECR 1005, paras. 11-12)。なお、近時の判決でも、このように述べられることがあるが(Case C-239/99, Nachi Europe v HZA Krefeld [2001] ECR I-1197, para. 21)、実際には、それだけでは不十分で、原告の関与がダンピング防止措置の発動に影響を及ぼしたことが必要になる(Case T-597/97, Euromin v Council [2000] ECR II-2419, para. 45)。例えば、原告の提供したデータに基づき、損害額やダンピング・マージンが決定される場合などがこれに相当する(Case 264/82, Timex v Council and Commission [1985] ECR 849, paras. 14-15)。

 このような理論的分析はさることながら、原告をその特性に応じて分類し、以下のように説明することもできる。

 

@ 製造業者・輸出業者

まず、ダンピング製品を製造し、自ら輸出する者(Case 119/77, Nippon Seiko and others v Council and Commission [1979] ECR 1303, para. 11)、また、ダンピング調査手続の開始を申し立て、これに積極的に参加するだけではなく、その他の事情に基づき(例えば、同人が提出した資料に基づき、ダンピング防止税額が決定されたこと)、個人的該当性を有すると解される者(Case 264/82, Timex v Council and Commission [1985] ECR 849, paras. 12-17)の訴えは、従来より許容されている。これは規則が原告に直接的かつ個人的に関わると解されるからであるが、今日、このようなケースでは、原告の locus standi は争われていない。例外的に、被告である理事会が、中国の国営輸出企業の原告適格を否認したケースでも(理事会と委員会によれば、「個人的」要件を満たす原告は中国とされる)、第1審裁判所は、同企業の訴えを許容している(Case T-161/94, Sinochem Heilongjiang v Council [1996] ECR II-695, paras. 36-50)。

これに対し、他者が製造した製品を輸出する者(non-producing exporters)は、ダンピング防止措置に「個人的」に関わらないとされるが、ただし、その販売価格が輸出価格としてダンピング・マージンの算出に使用される場合は、「個人的」要件が満たされる。なぜなら、このような場合には、同輸出業者の立場は、製造者の立場に準じるからである。

 

A 輸入業者

同様に、輸入業者の場合であれ、その販売価格が輸出価格として用いられたり(Case 279/86, Sermes v Commission [1987] ECR 3109, para. 16)、ダンピング防止税の算出に用いられる場合は(Joined Cases C-305/86 and C-160/87, Neotype Techmashexport v Commission and Council [1990] I-2945, para. 20)、原告適格が認められる。例えば、EC措置の影響を個人的に受ける輸出業者の子会社がこの輸入業者に当たる(Cases C-305/86 und C-160/87, Neotype Techmashexport v Commission and Council [1990] ECR, I-2945, para. 19)。また、他社製品を自らの名前で販売する目的で輸入する業者(original equipment manufacturer)の訴えも、同人に対する販売価格を元にダンピング・マージンが算出される場合は適法である(Joined Cases C-133/87 and C-150/87, Nashua Corporation and others v Council and Commission [1990] ECR I-719, paras. 12-21)。

他方、製造者と特別な関係を持たず、調査手続に関与しなかった輸入業者の訴えは原則として認められない。すなわち、同人は、輸入業者として、ダンピング防止規則の影響を間接的に受けているに過ぎず(Case T-167/94, Nölle v Council [1995] ECR II-2589, para. 62)、また、EC2次法は同人に個人的に関わるものではないとされている(Case 307/81, Alusuisse Italia v Council and Commission [1982] ECR 3463, paras. 9-14)。要するに、同人が受ける不利益は、ダンピング防止措置の対象製品を輸入する者であれば、誰にでも生じるものであり、その他の輸入業者と区別されるべき特性が同人にはないと判断されている。また、このことは、輸入業者が一社しか存在しない場合であっても異ならないとされる(Case 279/86, Sermes v Commission [1987] ECR 3109, para. 18)。もっとも、原告は該当製品の大量輸入業者であり、かつ、最終消費者であり、世界規模でみても製造者は限定されていることから、ダンピング防止税の影響を深刻に受けていること、また、EC内の唯一の製造者は、原告のライバル企業であり、同社は、原告への原料供給を拒んでいるといった特殊事情が存する場合には、訴えが許容される(Case C-358/89, Extramet Industrie v Council [1991] ECR I-2501, para. 17)。

 なお、委員会や理事会の規則が、複数人に対するダンピング防止税について定めている場合、前述した訴訟要件を満たす者は、自らに関係する措置の有効性しか争えない。すなわち、他者に課される防止税は、原告に個人的に関わるものではないため、その無効宣言を求める訴えは許容されない(Cases 240/84, NTN Toyo Bearing Company and others v Council, [1987] ECR 1809, paras. 6-7)。


 B その他の第三者

ダンピング輸入によって被害を受けたその他EC企業 (団体)も、例えば、基本規則上の権利が保障されなかった場合には、それを理由に訴えを提起しうると解される(Case 191/82, Fediol [1983] ECR 2913, paras. 11-33)。ダンピング製品の使用者と消費者(団体)の場合も同様である(Case C-170/89, BEUC v Commission [1991] I-5709, paras. 9-12)。 なお、欧州委員会やEU理事会がダンピング防止措置を発動した結果、これらの者の下に不利益が生じ、それゆえに同人らがEC措置の適法性を争い提起する訴えは不適法である。なぜなら、この不利益は、ダンピング防止措置の間接的影響と解されるためである。すなわち、EC条約第230条第4項の「直接的」要件が満たされないため、同人らの訴えは許容されない。

 

 

 



Voice Home Page of Satoshi Iriinafuku


「EUの通商政策」のトップページに戻る

「ダンピング防止政策」のトップページに戻る