はじめに
第41条は、行政機関に対する権利保護について定めており、とりわけ、行政手続が適正に行われる必要性について規定しているが、これは、ECが法的共同体であることより導かれる(EC条約前文参照)。また、理由付けの原則(EC条約第253条)、ECに対する損害賠償請求(第288条)、EC諸機関に対する請願権(第21条第3項)など、第41条が定める事項は、すでにEC条約内で規定されており、憲章は、これらの規定を継承している。なお、これらの保障内容に関し、EC裁判所はすでに多くの事件で判断を下しており、「適切な行政の原則」(principle
of proper administration/principe de bonne administration/Grundsätze
einer ordnungsmäßigen Verwaltung)を確立している(See Case C-255/90 P,
Burban [1992:] ECR I-2253, paras. 7 and 12)。第41条の解釈・適用に際しては、この判例法が参照される。
欧州人権条約第6条も、広い意味での適正な行政に対する権利を保障しているとされる。また、OECDや欧州評議会の文書も先例として捉えることができるが、この権利を明確に保障する国際人権条約は、EU基本権憲章が最初である。
なお、イタリア憲法第97条、ポルトガル憲法第266条以下、スペイン憲法第103条第1項、第105条〜第106条のように、国内憲法で適正な行政に対する権利を保障する加盟国もある。
規定の内容
(1)第1項(適正な行政)
適正な行政に対する権利の主な保障内容は、第1項で定められている。つまり、各人は、EUの機関・組織によって、@公平、A適正、かつ、B適切な期間内に申立て等を扱ってもらう権利を持つ。これは、EC法上の大原則にあたるが、その具体的な保障範囲は、第2項で例示されている。
(2)第2項
適切な行政に対する権利の例として、第2項は、特に以下の点を挙げている。第1項に同じく、これらの権利はEU市民に限らず、全ての者に保障されるが、権利を主張しうるのは、EU・ECの行政機関であり、加盟国の行政機関は含まれない。
@ 審問を受ける権利
行政機関がある者に不利な措置(罰金、課徴金や制裁など)を発する場合、同人は、発動に先立ち、法的審問を受ける権利を持つ。この権利は、裁判手続だけではなく、行政手続においても保障される。なお、審問が行われなかった場合であれ、行政機関の判断に誤りがない場合は、行政措置の依然として有効である。つまり、審問が行われていれば、行政機関は異なる判断を下していたと考えられる場合にのみ、審問を経ずに発動された措置は無効となる(Case
C-301/87, France v. Commission [1990] ECR I-307, para. 31 ; Case C-288/96,
Germany v. Commission [2000] ECR I-8237, para. 101. Vgl. zum deutschen
Recht § 46 VwVfG)。
国連安保理制裁の実施
A 行政措置の基礎となった資料の開示請求権
前述した法的審問請求権の意義を高め、また、行政措置の適法性を争う個人の権利をより良く保障するため、個人は、行政機関の判断の基礎となった資料の開示を請求しうる。もっとも、第2項は、機密保持や職業秘密保持の観点から、この権利は制約されることについて触れている。なお、(欧州議会、EU理事会および欧州委員会が作成した)文書へのアクセス権は、憲章第42条でも保障されているが、第41条第2項は、行政処分を受けた者に対し、処分の基礎となった資料へのアクセスを保障する点で、保障範囲が限定されている。
B 理由付けの義務
前掲の資料開示請求権と同様、個人の権利保護を実効的にするため、行政機関は判断の理由を述べなければならない。理由付けの必要性は、従来のEC裁判所判例法でも強調されている(詳しくは
こちら)。
(3) 第3項
ECの諸機関の権限行使に基づき損害が発生した場合、個人はその賠償を請求することができる。この規定は、従来の EC条約第288条 に相当する。なお、憲章起草時には、EU諸機関の行為から生じた損害にまで対象を広げるべきとする意見も出されたが、支持されていない。つまり、第3項は、EC諸機関の行為より生じた損害に限定している。もっとも、欧州憲法条約によって、ECを廃止し、EUに統合することに伴い、同規定の文言も修正されている。つまり、EU諸機関の行為によって生じた損害の賠償請求を認めている。
国連安保理制裁の実施
(4) 第4項
全ての者は、EU・EC条約の公式言語を用いて、EUの諸機関に問い合わせ、また、その言語によって返信を得る権利を持つ。この権利は、EC条約第21条第3項が保障する権利に匹敵するが、同規定がEU市民にのみ権利を与えているのに対し、憲章は対象者を拡大している。
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