4. 損害賠償請求
次に、EU(EC)が国際法上の義務を履行するために発動した措置によって生じた損害の賠償請求について考察するが、EC法は、このような訴えをECに対し提起する権利を保障している。それゆえ、第1の分野の措置によって被害を受けた者は賠償を請求しうる。なお、ECの損害賠償責任に関する実体法は、加盟国法に共通の諸原則によるものとされており(EC条約第288条第2項)、その詳細はEC裁判所の判例法を通し確立されてきた。それによると、以下の要件が満たされる場合、ECは損害を賠償しなければならない(参照)。
@ |
EC諸機関の措置が違法であること
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A |
実際に損害が生じていること
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B |
諸機関の違法な行為と原告らが被った損害との間に直接的な因果関係が存在すること(つまり、ECの行為から直接的に損害が生じたこと) |
これらの要件を審査する順番は定められておらず、いずれかに該当しないことが明らかになれば、他の要件について検討するまでもなく、EC裁判所は損害賠償請求を退けることができるが、実務上、最も重要な要件は@である。つまり、損害を発生させたとされるECの行為が違法と認定されなければならない。それゆえ、無効の訴え(EC条約第230条)の場合と同様に、法令審査が行われることになる。EC法の有効性を争う要因として挙げることができるのは、@上位法違反、A立法手続違反、B立法者の裁量権の濫用に限定されているが(第230条参照)、@の上位違法には、基本権保護に関する諸規定だけではなく、国際法規も含まれる。それゆえ、安保理決議を実施するためにECが制定した法令が基本権を侵害したり、また、安保理決議との整合性に欠ける場合には、EC裁判所によって無効と判断される。もっとも、前述したように、経済制裁による基本権の制約は正当化される。また、ECの措置は安保理決議に違反していない。それゆえ、ECの措置は違法とは解されず、損害賠償請求も認められない。
なお、安保理決議を機械的に実施する制裁は、厳密には、ECの行為とはみなされないため、ECに対し損害賠償を請求しえないと考えることもできよう。
ところで、第2、第3の柱の分野では、損害賠償請求に関する規定がEU条約内に設けられていない。これは、権利保護の要請に反するか、また、それゆえに超法規的な司法救済が必要になるかという問題も生じるが、EC裁判所は、裁判所へのアクセスの重要性を強調する一方で、これらの問題を明瞭に否認している。つまり、第2、第3の柱の分野の措置によって損害を被った者は、その賠償を求め、ECの司法機関に提訴しえない。安保理決議に基づくECの制裁のケースでは、まさに、個人の権利・利益を制約することが意図されているため、損害賠償請求が認められないとしても問題は生じないが、個人の請求権そのものを否定する現行司法制度には問題があろう。
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