欧州憲法採択まで、まだ長い道のり |
![EUの旗](p-010389-00-6.jpg) |
来る6月17・18日、ブリュッセルで開催予定の政府間協議において欧州憲法が採択されるよう、EU加盟25か国は協議に力を入れているが、5月25日、ブリュッセルで開かれた外相会議では、加盟国間の溝は依然として深いことが浮き彫りになった。
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2004年6月18日、EU加盟国首脳は全会一致で、欧州憲法を採択しました。
詳しくは こちら
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EU理事会の立法手続
従来どおり、EU理事会における議決方式が最大の争点となっている。昨年12月の政府間協議では、スペインとポーランドが憲法草案に反対し、協議は決裂したが( 参照)、
その後、スペインでは政権が交代し(2004年4月)、また、EU拡大直後、ポーランドでは
Miller 首相が退陣するなど、国内の政治体制が改まり、欧州憲法草案が定める「2重の多数決制度」(特定多数決、第24条)
に譲歩を示すようになった。もっとも、その詳細には異議を唱えている。憲法草案によれば、議案の採択には、@過半数の加盟国の賛成と、A同国の国民が
全EU市民の60パーセント以上に相当することが必要になるが、両国政府は、Aを65%以上に引き上げることを要求している。これによって、比較的人口の多い両国は、自らの反対票を有効に活用し、法律の制定を阻止することができるようになる。
現行法 |
欧州憲法草案 |
スペイン・ポーランド案 |
2重の多数決は原則的な制度ではないが、加盟国はこれを要請することができる。この場合、@従来の特定多数決制度が適用される他、AEU市民の62%の賛成が必要になる(EC条約第205条第4項)。
参照
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2重の多数決は原則的な「特定多数決制度」であり、@加盟国の過半数の賛成と、A賛成国の国民が
全EU市民の60%に当たることが必要になる(第24条参照)。 |
@加盟国の過半数の賛成と、A賛成国の国民が全EU市民の65%以上(スペイン案では66.6%)を占めることが必要になる。 |
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なお、現EU理事会議長国のアイルランドは、欧州憲法草案の規定は非現実的であるとし、@EU加盟国の55%と、AEU市民の65%の賛成を必要とする代替案を提示している。
その他、多数決制度適用分野の拡大についても争いがある。例えば、従来どおり、イギリスは、外交政策や租税政策の分野に多数決制度を導入することに反対しているが、EU議長国のアイルランドは、@4か国が反対し、かつ、AこれがEU市民の15%に相当すれば、
法律の制定を阻止しうるとする妥協案を提示している。
欧州委員会の構成
欧州委員会の構成についても、見解はまとまっていない。 憲法草案第25条第3項は、2009年11月以降、委員会は15名(委員長、副委員長(EU外相)と13人の委員)で構成されると定めるが、大半の加盟国は、
現行法のように、各国より1名の委員が擁立されるべきと考えている。これに対し、独仏やデンマークは、作業の効率化を図る観点から、委員数を限定することを提唱している。なお、現EU理事会議長国のアイルランドは、2014年より、委員会のメンバーを18人以下に削減することを提案している。実施が約10年後となるのは、今年5月1日に加盟したばかりの10か国の立場を考慮したものである。
当初、中小国は欧州委員会の小規模化に反対していたが、現在は、ベネルクス3国やフィンランド、また、欧州委員会自身も、前述した新提案に賛成しているとされる。報道によれば、従来の立場を貫くオーストリアは孤立感を強めている。
diepresse.com
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現行法と欧州憲法草案について
「神」に関する言及
さらに、憲法前文において、「神」(キリスト)について言及すべきかどうかについても争いがある。イタリア、ポーランド、マルタ、リトアニア、ポルトガル、チェコとスロバキアの7か国は、史実とヨーロッパの基盤を重視し、憲法前文で神について言及すべきであることを改めて強調しているが(なお、「神」とはキリストのみを指すものではないとしている)、フランスとベルギーはこれに反対し、単に、文化的、宗教的、また、民族的なヨーロッパの遺産
について一般的に触れれば足りるとしている。また、カトリック教国のスペインも、前文で触れる必要はないとしている。
このように依然として加盟国間には、大きな見解の対立が見られるが、立法手続と前文に関し、欧州憲法草案に異議を述べているポーランドの
Cimoszewicz 外相は、来る6月の政府間協議も物別れに終わる可能性を示唆している。
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