2004年10月、ドイツの公的研究機関 Osteuropa-Institut (東欧研究所) の Quaisser 研究員と Wood 研究員は、“EU Member Turkey? Preconditions, Consequences and Integration Alternatives” と題する報告書を発表し、トルコのEU加盟に反対する立場を示した。この見解は、主として、以下の4つの理由に基づいている。
1.EUの存在意義の希薄化
トルコのEU加盟によって、EUは、“European United Nations” ないし自由経済地域になりさがり、その存在意義が薄れる。また、トルコのEU加盟によって、EU内の治安はかえって悪化する(7頁)。
なお、トルコのEU加盟は、中東諸国の民主化を促すという見解も主張されているが、イスラム教国がトルコに倣うとは限らない(12頁)。また、トルコのEU加盟は、異文化の統合を助長するという意見も聞かれるが、西欧諸国とトルコの社会・文化的隔たりの大きさを考慮すると、この立場は説得力に欠ける。また、トルコのEU加盟に際しては、EU市民のアイデンティティーが問われることになる(12〜13頁)。
2.コペンハーゲン基準充足の不完全性
加盟交渉の開始に先立ち、トルコは コペンハーゲン基準 を満たさなければならないが、その経済的要件(市場競争力の強化)は、まだ完全に充足されていない。確かに、トルコ経済の発展には目を見張るものがあり、通貨も安定しているが、多くの点では、ブルガリアやルーマニアに若干劣っている。10年後には、大きな課題は残っていないとも解されるが、経済の発展は国政の動向にも左右されることを考慮すると、非常に楽観的な推測は適切ではない。また、仮に、経済発展が継続するにせよ、EU・トルコ間の格差は依然として大きいばかりか、トルコには、地域間格差の是正といった問題が残ると考えられる(9頁)。
政治的要件(民主主義制度の確立と人権保護)の充足はさらに困難になろうと報告書は分析している。また、2004年10月の欧州委員会報告書では、政治的要件に関し、著しい進展がみられるとしているが、いまなお大きな欠陥があると捉えている。欧州委員会の報告書には、むしろ、改善の期待が込められているといった意味合いが強い(8頁)。なお、加盟交渉の開始は、トルコの制度改革を奨励する要因になるする見解が主張されているが、制度改革が成功するかどうかは、加盟交渉の開始にかかっているわけではない(12頁)。
また、トルコにとって、EC法の総体系(acquis communautaire)の受入れは容易ではない(10〜11頁)。
3. EUの負担
東方拡大 は実現したものの、市場の統合はまだ完成していない(参照)。また、リスボン戦略 の達成など、EUは重要課題を抱えている。このような状況下において、トルコの早期加盟は、EUにとって大きな負担となる(8頁)。
また、EU加盟15ヶ国とトルコ間の社会・経済格差を考慮すると、加盟交渉は、中東欧諸国の場合よりも、長い期間をかけて行う必要がある(7頁)。
4.EU加盟の経済効果
EU・トルコ間では、すでに関税同盟が設立されており、大きな貿易障壁は取り除かれているので、さらなる経済発展は期待しえない(10頁)。EU・トルコ間の経済格差を考慮すると、EUからトルコへの経済支援は膨大な額に上ると想定されるが、欧州委員会はこれを楽観的に捉えている(11頁)。トルコ支援は、現在のEU加盟国の生活水準を下げる(11頁)。
トルコの経済規模や貿易量が小さいことを考慮すれば、同国のEU加盟の効果は小さい。確かに、投資の促進は、EUにも利益をもたらすが、これはEU加盟以外の方法によっても実現しうる(11頁)。
(参照) Centre for European Union (CER) の擁護論は こちら
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