オーストリア 国民投票の実施に関する議論 |
オーストリアは、国会の審議によって欧州憲法条約の批准を決定するが(すでに決定済み〔参照@、A〕)、国民投票の必要性は、政党間だけではなく、憲法学者の間でも争われている。
問題は、欧州憲法条約が、EU法は国内法に優先すると定めていることより生じているが(第I-6条)、オーストリア憲法によれば、憲法上の基本原則(例えば、民主主義や連邦主義など)の修正には、国民投票が必要になる。EU法(EC法)の優先 も基本原則の修正に当たるため、国民投票が不可欠であるという見解が主張されている(憲法学者の Theo Öhnlinger 教授や Karl Weber 教授)。
これに対し、EU法(EC法)の優先 は、オーストリア憲法の根本的な改正(全面改正)には当たらないとする見解も主張されている(EU法学者の Stefan Griller 教授)。また、EU法(EC法)が国内法に優先することは、オーストリア国内でもすでに確立しており、争いの余地はないとされている(憲法裁判所の Karl Korinek 長官)。なお、EU法(EC法)の優先は、古くからEC裁判所の判例法の中で確立されており、オーストリアのEU加盟に際し、国民投票が実施されているため(1994年)、改めて実施する必要はないとの立場もある。
オーストリアの国会は、すでに2005年3月、国民投票の見送りを決定しているが(参照)、ÖVP、SPÖ
や緑の党といった主要政党は、EUレベルで国民投票が実施されることが望ましいと考えている(参照)(なお、EUレベルで国民投票を実施するという案は、他の加盟国によって支持されなかった)。極右的思想を持つ政治家として知られる Jörg Haider 氏がかつて党首を務めていた FPÖ や、新たに発足させた BZÖ は、国民投票の実施を求めており、実施されずに国会が批准を決定する場合には、憲法裁判所に提訴する構えを見せている(参照)。
なお、隣国ドイツでも、国民投票の必要性を求める立場がある。しかし、国民投票が実施されることなく、国会が批准を決定したことから、実際に連邦憲法裁判所に訴えが提起されている(参照)。
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