遺  言


1. はじめに

 遺言とは、遺言者がその死亡後に、特定の法律効果を発生させることを意図して行う意思表示(相手方のない単独の意思表示)を指す。

 国際私法上は、@ 意思表示としての遺言の成立、方式、効力、取消しと、A 遺言事項(法的に、遺言でどのようなことを定めうるか)に関する問題の準拠法について検討を要する。

 @ の問題の準拠法は適用通則法第37条に基づき決定されるが、遺言の方式については、「遺言の方式の準拠法に関する法律」が制定されており、それによる(適用通則法第43条第2項参照)。

 Aの点に関し、遺言では、遺言者の財産の相続について定められることが多いが、遺言によって 特定の財産を処分しうるか、また、法定相続の関係を変更しるかは、相続の準拠法 による(適用通則法第36条参照)。つまり、相続の準拠法によって、遺言による相続や法定相続関係の変更が認められていなければ、遺言でこれらのことが定められていたとしても 、法的な効力は発生しない。

 

2. 遺言の成立および効力

 遺言の成立(実質的成立要件)および効力は、その成立時における遺言者の本国法による(適用通則法第37条第1項)。

 遺言の成立とは、遺言に関する意思表示の暇疵や遺言能力(民法第961条以下参照)などに関する問題である。前述 したように、遺言である特定の財産の処分(相続)について定めることができるかという問題(遺言の実質的内容に関する問題)は、これには含まれない。

 他方、遺言の効力としては、遺言の効力発生時期や対抗力が問題になる。
 


3. 遺言の取消し

 遺言の取消しとは、遺言者が事後に遺言を撤回することを指す。我が国の民法第1022条によれば、遺言者はいつでも遺言の全部または一部を撤回することができるが、このようなことが認められるかどうかは、撤回時における遺言者の本国法による(第37条第2項)。これに対し、意思表示の暇疵を理由に取り消しうるかどうかは、遺言の成立 に関する問題であるので、遺言成立時における遺言者の本国法による(第37条第1項)。

 遺言者が、後日、以前に作成した遺言書と内容的に矛盾する新しい遺言書を作成する場合、どちらが優先するかは、古い遺言の取消しの問題ではなく、新しい遺言の成立の問題として、第37条第1項の定める準拠法による。


4. 遺言の方式

 遺言の方式(民法第967条以下参照)については、「遺言の方式の準拠法に関する法律」という特別法があるため、適用通則法は原則として適用されない。この特別法は、1961年のハーグ「遺言の方式に関する法律の抵触に関する条約」に基づき制定された。
遺言
 かつて、法例は、遺言の方式は遺言成立時における遺言者の本国法によることを原則とし、行為地法によることも認めていたが(改正前の法例第26条第3項)、「遺言の方式の準拠法に関する法律」(「遺言の方式に関する法律の抵触に関する条約」も同様である)は、遺言をできるだけ有効に成立させるため、遺言と何らかな合理的関連性を有する地または国の法を準拠法として認めている。具体的には以下のいずれかの法によることができる(遺言の方式の準拠法に関する法律第2条)。

   @ 行為地法
   A 遺言の成立時または死亡時における遺言者の本国法
   B 遺言の成立時または死亡時における遺言者の住所地地法
   C 遺言の成立時または死亡時における遺言者の常居所地法
   D 不動産に関する遺言については、その所在地法

 Aに関し、遺言者の本国が 不統一法国 である場合には、その国の規則に基づき、遺言者が属していた地の法を、また、そのような規則がないときは、遺言者に最も密接に関係する地の法を本国法とする(第6条)(間接指定主義〔適用通則法第38条第3項参照〕)。

Bに関し、遺言者が特定の地に住所を有していたかどうかは、その地の法による(第7条)。

 なお、遺言者が複数の国籍を有する場合に関し、適用通則法第38条第1項 は適用されない。また、反致 に関する第41条も適用されない。つまり、一部の規定を除き、適用通則法は適用されない(第43条第2項但書)。

 外国法の適用が明らかに公の秩序に反するときは適用されない(第8条)。これは、適用通則法第42条 に相当するが、文言ないし表現が若干異なっている。
 

 遺言の取消しの方式についても特別法が適用される。
 

 
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