1. 訴状等の送達 訴訟を提起するには、原告はまず訴状を裁判所に提出しなければならない(訴状が提出された裁判所を「受訴裁判所」とよぶ)[1]。
提出された訴状は裁判所書記官によって事務処理がなされ、裁判長[2]に回される。裁判長が訴状を審査し、不備がないと判断する場合(参照)[3]、訴状の副本は被告に送達される(訴状の送達)[4]。これは法定の方式にのっとって行わなければならない[5]。その他、訴状以外の書類で、訴訟に関わる書類(訴訟書類)も当事者や利害関係人に送達される。
2. 送達の方式 訴状や訴訟書類の送達は以下の方法による。 @ 郵便または執行官による送達(民訴第99条) 裁判所の近隣や、早朝ないし夜間に送達される場合は、執行官によってなされるが、このような特殊な場合を除き、通常は、「郵便による送達」がなされる。なお、「郵便による送達」と「郵便に付する送達」(付郵便送達)(民訴第107条)とは異なるので注意されたい[6]。
A 補充送達、差置送達、付郵便送達(民訴第106条、第107条) 訴状は名宛人(被告)に直接手交されるのが原則であるが(交付送達、第101条、第103条第1項)、名宛人以外の一定の関係者に交付することも認められる(補充送達、第106条第1項、第2項)。送達を受けるべき者が正当な理由なく受領を拒むときは、その場に差し置くことも認められる(差置送達、第106条第3項)。これらの方法によっても訴状を送達できないときは、裁判所書記官は訴状を書留郵便等に付すことができる(付郵便送達、第107条)。その場合は発送の時点において、送達があったとみなされる。 B 公示送達(民訴第110条〜113条) 当事者の住所、居所、その他、送達をすべき場所が知れず、通常の調査方法によってもこれが判明しない場合は、裁判所書記官が送達すべき書類を保管し、名宛人が出頭すれば交付する旨の書面を裁判所の掲示板に掲示することができる(公示送達)。原則として、掲示日から2週間が経過したときに、送達の効力が生じる(第112条)。
付郵便送達や公示送達は、被告が実際に訴状を受け取っているかどうかを問わず、送達の効力を認めるものであるが、被告の裁判を受ける権利を
保障する観点より、慎重な運用が要求される(最判昭和42年2月24日、民集第21巻第1号209頁参照)。
裁判所を経ず、当事者が必要書類を自ら送付し合うことを認める国もあるが、我が国は、原則として、当事者送達主義を採用していない。送達を要する書類は、裁判所の職権によって送達されるが、この事務を管轄するのは裁判所書記官である。
A国が、他国(例えばB国)の同意を得ず、B国の領域内において裁判権を行使することは、B国の主権を侵害することになり許されない。そのためB国の協力が必要になる。外国にいる当事者に訴状や訴訟資料を送達することも、その国の主権を侵害することにあたる。従って、外国の協力が必要になる。 日本国内に居住するXは、Yを被告として、東京地方裁判所に訴訟を提起した。裁判長が事件を受理すべきと判断するときは、Yに訴状を送付し(民訴第138条第1項)、また、第1回の口頭弁論の期日を指定し、当事者を呼び出さなければならない(民訴第139条)。被告Yが日本国内に居住する場合は、訴状の送達には特に問題は生じないが、Yがアメリカ合衆国内に居住する場合、東京地裁は、同国の協力を得なければ訴状を送達できない。なぜなら、訴状の送達は裁判権の行使(すなわち国家権力の行使)にあたり、我が国が合衆国内でこれを直接行使することはできないからである。 2.国際司法共助の法的基盤 各国は、裁判権の行使を互いに助け合うため、条約(2国間条約や、多数の国が参加する多国間条約)を締結したり、個別の応諾を行っている。 日本は、例えば、以下の多数国間条約を締結している。
送達条約は、民訴条約の文書の送達に関する規定を改善する目的で制定された条約である。そのため当事国が両条約に加盟している場合は、送達条約の方が優先して適用される。 日本は両条約を締結しているが、送達条約のみを締結している国も少なくない(例えば、アメリカ合衆国、イギリス、カナダ、中国)。 3.送達の国際司法共助 国際司法共助によって、日本から外国に送達する場合(送達の嘱託)と、逆に、外国から日本に送達されてくる場合(送達の受託)があるが、以下では、前者について説明する( 後者については こちら)。
我が国で係属している訴訟のために外国の領土内で行う送達(送達の嘱託)
日本は、受訴裁判所 → 高裁長官・地裁所長 → 最高裁事務総局民事局長 を経由する方法を採用している。その後は、以下のようなルートを通じ、外国に在住する被告に送達される。 (1)指定当局送達(外国の指定当局を経由する方法)
ポイント
(2)中央当局送達(外国の中央当局を経由する方法) ポイント
(3)領事送達(外国に駐在する我が国の領事官に送達させる方法) ポイント
(4)管轄裁判所による送達 ポイント
国交がないため、外国に送達を依頼できない場合や、天災などのため、嘱託はしたが、その効果がないと考えられる場合などにおいては、公示送達をすることができる(民訴第110条第1項第3号)。公示送達がなされる場合には、裁判所は、外国にいる当事者に公示送達があったことを郵便で通知する。
※ 送達に要する期間 送達に要する期間は、受託国、送達方法、また、事件の内容によっても異なるが、実務例が多い米国やフランスの例をとると、最高裁から文書が発し、送達実施後、最高裁に届いた送達結果を嘱託庁に送付するまでの平均期間は以下の通りである[7]。
4.書類の直接交付や直接郵送の方法による送達 前述したように、我が国では、送達は裁判所の職権によってなされるものとされ、当事者間で送達し合うことを認めていない。これに対し、米国では、当事者による送達も適法である。 そこで、アメリカ合衆国に住む者(原告)が、日本国内に居住する者(被告)に対して、訴状を郵便で送達してきた場合、このような送達は適法かどうか。この問題については、以下の2点を検討するべきである。
@について @で述べた問題に関しては、直接、郵送による送達は全面的に適法であるという説(全面適法説)、 逆に不適法であるという説(適法性否定説)が主張されている。送達条約第10条が規定する拒否の宣言を我が国はしていないのであるから、直接郵送による送達も適法と解釈すべきであろう。もっとも、期日までに十分な時間的余裕がなかったり、訳文が付されていない場合は、不適法であるとする見解も有力である(中間説、東京地裁平成2年3月26日判決[金商857号39頁])。
Aについて 日本人の言語力を考慮すると、一般的に国際用語とされる英語または仏語で書かれてある場合でも、その和訳がなければ、憲法第32条が保障する適正手続にかなった送達とはいえないであろう(原則)。なお、この問題を考慮する際には、裁判上の文書の書類を受け取った者の語学力を(個別的に)考慮するべきであるとの見解が主張されている。 [1] 民事訴訟法第133条第1項参照。ただし、簡易裁判所では口頭による訴えの提起も認められる。同第271条参照。 [2] 裁判官が一人で裁判を行う単独体の場合は、単独裁判官が審査する。 [3] 不備があるが、これが補正された場合も同様である。訴状の記載事項につき、第133条第2項参照。また、例えば石川明・小島武司編『新民事訴訟法』(青林書院、1997年)93頁以下(中島)を参照されたい。 [4] 第138条第1項。なお、送達に関する事務は裁判所書記官が取り扱う(第98条第2項)。 [5] この点につき、石川明・小島武司編・前掲書138頁以下(本間)を参照されたい。 [6] 中野貞一郎他『新民事訴訟法講義』(有斐閣、1998年)54頁を参照されたい。 [7] 高桑・道垣内編『国際民事訴訟法(財産法関係)』(青林書院、2002年)207頁(高桑・山崎)参照。
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