国際民事訴訟法 序論
 1.国際民事紛争(渉外事件)


 国際取引 や国際結婚などに基づき、国際紛争渉外事件ともよぶ)が生じる。その例としては、以下のようなものが挙げられる。



@

アメリカ合衆国の企業(売主)と日本企業(買主)との間における代金支払や、商品の引渡に関する紛争

 

                 

米国企業(売主)

代金の支払を要求 →

商品の引渡を要求

日本企業(買主)



  リストマーク 参照




A

イギリス人男性(夫)と日本人女性(妻)の離婚に際して生ずる以下の紛争

     ・

慰謝料請求

     ・

財産分与

     ・

未成年の子供の親権者の決定 

 (英国人)  イギリス人の夫 ←   離婚訴訟  →    日本人の妻 (日本人)

  リストマーク 参照




B

外国の航空会社Mの飛行機が墜落し、日本人乗客の遺族がM社に慰謝料の請求をする場合

  リストマーク 参照



  

 2.国際民事訴訟


 渉外事件においては以下のような問題が生じる。

 

@

国際裁判管轄の決定

 どの国の裁判所が裁判をなすべきか。
裁判管轄の決定に際しては、特に、自らを防御する機会が被告に適切に保障されるかどうかに留意しなければならない。

   参照 詳しくは こちら


A

国際訴訟競合

 同一の訴えが、例えば、日本の裁判所だけではなく、イギリスの裁判所にも申し立てられる場合にはどうするか。
 訴えが二重に提起されれば、被告の負担は重くなるだけではなく、複数の裁判所によって異なる判断が下されるといった不都合が生じる場合がある。


   参照 詳しくは こちら


B

当事者能力、訴訟能力、免除

 当事者が外国人である場合には、当事者能力(民訴法第28条参照)や訴訟能力(民訴法第33条)、訴訟費用または法廷用語について検討する必要性がある。また、被告が外国、外国の外交使節または国際機関である場合には、「免除」について考察しなければならない[1]

C

訴状の送達

 訴訟当事者が外国にいる場合には、訴訟書類の送達はどのようにして行うか
(民訴法第108
条参照)。


D

証拠調べ

 証拠調べの対象が外国にあるときは、どのようにして証拠調べを行うか。


E

準拠法の選択

 どの国の実体法(例えば民法や商法など)に基づいて、裁判すべきか(準拠法の選択、これは、国際私法の問題である)。

   参照 国際私法については こちら


F

判決の承認・執行

 

 日本の裁判所は、アメリカ合衆国の裁判所が下した判決を承認し、判決の執行を認めることができるかどうか。

(例)日本の会社Aは、アメリカで詐欺を行ったため、被害者が、アメリカ国内の裁判所に損害賠償の支払を求める訴えを提起したところ、裁判所は、これを認めて、損害賠償の支払を命じる判決を下した。このアメリカ国内の裁判所の判決を日本で執行するには(すなわち、会社Aから賠償金を取り立てるためには)、この判決が日本の裁判所によって承認される必要がある。


   参照 
詳しくは こちら


外国判決の承認・執行




 上述のEは国際私法に関する問題であり、それ以外は国際民訴法の問題である。

わが国の民事訴訟法(特に裁判管轄に関する規定)は、原則として、国内事件に適用されることを想定して起草されているため(例外として民訴法第108条参照)、国際紛争にも適用されるわけではない(最高裁「マレーシア航空事件判決」参照。なお、国際民事紛争を効率的に処理するために、諸国間で条約を締結して、司法機関を設けたり、特別な取り決めがなされることがある[2]

 


 3.国際民事訴訟法の意義と法源


(1) 意義

 国際民事訴訟法とは、国際民事紛争を解決するための手続法のことである。我が国において「国際民事訴訟法」という用語が用いられるようになったのは、第二次世界大戦後であり、国際民事訴訟法の研究の歴史は浅い。なお、国際民事訴訟法という独自の法分野が存在するかどうかは争われている(この点につき、石川明=小島武司編「国際民事訴訟法」青林書院(1994年)19頁以下(石川=大濱)参照)。

例えば、ある者の見解によれば、国際民事訴訟法は国際私法の一部にあたるとされる。確かに、国際民事訴訟法は、国際私法と同様に国際的な配慮を必要とするが、国際私法の一部と捉えることはできない。なぜなら、国際私法とは、ある国際的な訴訟事件(渉外事件)に適用されるべき実体法はどの国の法令かどうかについて定める法分野であるのに対し、国際民事訴訟法の分野ではこのような問題は生じないからである。

 また、国際民訴法は民事訴訟法の一部であるとする見解もある。確かに、民事訴訟法と同様に手続法的な性格を有するが、対象となる事件の国際性を考慮する必要があるため、民事訴訟法とは独立して研究する必要性も否定できない。

 

(2) 法源

 我が国には、「国際民事訴訟法」としてまとまった法律は存在しない。国際民事訴訟法として適用されるものには、@民事訴訟法や民事執行法内の幾つかの規定(例えば、民訴法第33条[外国人の訴訟能力の特則]、第108条[外国における送達]、第118条[外国裁判所の確定判決の効力])と、A国際法(国際慣習法や国際条約)がある。日本が批准している条約の例は以下の通りである(この点につき、例えば、石川=小島編「国際民事訴訟法」(前掲書)22頁以下(石川=大濱)を参照されたい)。

   ・

1954年の「民事訴訟手続に関する条約」(いわゆる民訴条約)

  ・

1965年の「民事又は商事に関する裁判上及び裁判外の文書の外国における送達及び告知に関する条約」(いわゆる送達条約)

  ・

1965年の「国家と他の国家の国民との間の投資紛争の解決に関する条約」(いわゆる投資紛争解決条約)

 投資紛争解決条約は、紛争解決機関として「投資紛争解決国際センター」を設けている(同条約第25条参照)。

 

 


[1]      この点に関し、東京弁護士会国際取引法部会編「国際訴訟のQA」(商事法務研究会)5頁以下および8頁以下を参照されたい。

[2]      例えば、EC加盟国間における条約に関し、入稲福 智「管轄および執行に関するEEC条約(EuGVÜ)に関するEC裁判所の近時の判例研究 国際裁判管轄に関する規定に関して ―」石川明・三上威彦 編『国際民事訴訟法の基本問題』235~293頁および管轄および執行に関するEEC条約(EuGVÜ)1条第1項の「民事事件」の概念に関して」中野貞一郎・石川明 編『民事手続法の改革』(ゲルハルト・リュケ教授退官記念)433~466頁などを参照。






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