子の引渡しに関する外国裁判の承認・執行

 ◎ 東京高裁平成5年11月15日判決、判タ835号132頁


1.事案の概要

 X(米国籍の男性)とY(日本国籍の女性)は婚姻し、A(米国籍)をもうけたが、後に離婚した。 その際、居住地であるテキサス州の地方裁判所によって、Yが単独支配者(Sole Managing Conservator)と決定されたが、Xの申立てに基づき、同裁判所は、前掲の決定を覆し、Xを単独支配者に変更するとともに、Yに対し、AをXに引き渡すことを命ずる判決を言い渡した。YはAを連れ、日本に転居していため、Xが判決の執行を東京地方裁判所に求めたところ、同裁判所はこれを認容したため(東京地判平成4年1月30日、判タ789号259頁)、Yが控訴した。


2. 判決

(1) 非訟事件における外国裁判の承認・執行

 本件では、離婚した男女間における子供の監護権が争われており、我が国では、非訟事件 にあたる。それゆえ、本件外国判決は、民事訴訟法第118条の意味における「確定判決」にはあたらないと解すべきであるが、同条第1号および第3号の要件を充足する場合は承認し、その内、給付を命ずる部分については、民事執行法第24条を類推適用ないし準用し、執行判決を求めることができると解するのが相当である。


(2) 民事訴訟法第118条の要件の具備

 @ 第1号(外国裁判所の管轄権)

 Xがテキサス州の裁判所に提訴した当時、YおよびAは同州内に居住していただけではなく、Yは応訴しているから、本件につき、テキサス州の裁判所が管轄権を有していたことは明らかである。このことは、後に、YおよびAが日本に居住するようになったことによって左右されない。

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 A 第3号(公序)

 外国裁判が我が国の公序良俗に反するか否かを検討するにあたっては、同裁判の当否を審査するのではなく、これを我が国で承認・執行することが認められるかどうかを判断するのであるから、その判断の基準時は、我が国の裁判所が外国判決の承認・執行について判断する時と解すべきである(つまり、外国裁判所が判決を下した後に生じたことも考慮して検討される)。

 Aが日本に居住してからすでに4年以上が経過しており、現在、Aは言語の障害もかなり少なくなり、小学校に明るく通学している。むしろ、現在では、英語での会話や読み書きができない状況にあるため、AをXのもとに引き渡せば、言葉の通じないアメリカ合衆国で、言葉の通じない支配保護者の下での生活を強いられることは明らかである。本件口頭弁論終結時において、Aはまもなく11歳になろうとしているが、このようなAを現時点において、前述した保護状況におくことは同人の福祉にかなうものでないばかりか、かえって、同人の福祉に反する結果をもたらすことが明らかである。したがって、本件外国判決を承認し、Aの引渡しを命ずる判決を執行することは、公序良俗に反する。



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