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民事訴訟法講義ノート


訴 訟 事 件 と 非 訟 事 件


 民事事件には、@売買代金の支払いや、商品の引渡しを求めるケースなど、裁判所が法令に照らし、当事者間の権利・義務関係について判断する事件と、A信託管理人の改任(非訟事件手続法第71条の4)や、供託物保管者の選任など(第81条)、裁判所が自らの裁量に基づき、権利・義務関係を具体的に形成する事件とがある。前者を
訴訟事件 と呼ぶのに対し、後者は 非訟事件 と呼ばれる(最大決昭和40年6月30日、民集第19巻第4号1089頁参照)。非訟事件の例としては、その他に、後見開始の審判失踪宣告、子の氏の変更の許可、養子縁組の許可、未成年後見人の選任など、家事事件手続第117条以下(家事審判法第9条第1項)で列記されているものが挙げられる。これらは公益性の強いケースであり、裁判所の後見的な判断が要請される。

 訴訟事件の手続は、主として、「民事訴訟法」で定められている。非訟事件については「非訟事件手続法」(平成23年5月改正)で規定されているが、家事事件手続法(従来の「家事審判法」) などの特別法も制定されている。

 

 民事訴訟手続と民事非訟手続の主な相違点は以下の通りである。

 訴訟事件に同じく、非訟事件も、原則として、当事者の申立てがあった場合に手続が開始されるが(処分権主義)、非訟事件の中には、当事者の申立てがなくても、裁判所が職権で手続を開始しうるものがある(後述参照)。これは、国家が私人間の法律関係に後見的に介入し、判断を下すという非訟事件の性質・機能(行政的作用)に基づいている。

  裁判所(家庭裁判所)が職権で手続を開始しうる非訟事件の例
  • 後見人の職務に関する処分(民法第863条)
  • 限定承認の際の相続財産管理人の選任(第936条)
  • 後見人や補佐人等への報酬の付与
  • 遺言執行者に対する報酬の付与

 なお、当事者より成年後見の開始が申立てられたが、保佐の開始が相当であると家庭裁判所が判断するとき、同裁判所は保佐開始の申立てに変更するよう促すことになる。当事者がそれに従わないときの扱いについては争いがあるが、通説は、後見開始の申立ての中には保佐開始の申立てが含まれるため(大は小を兼ねる)、裁判所は保佐開始の審判を行うことができるとする(東京家審昭和47年3月2日、家月25巻4号46頁)。

 これに対し、保佐の開始が申立てられたところ、裁判所は後見の開始を相当と判断し、申立ての変更を促したが、当事者がそれに従わないとき、申立ては却下される。なぜなら、裁判所が職権で後見の開始を決定することは許されていないためである。
 


 訴訟事件では、両当事者(原告と被告)が対立し、公開の口頭弁論手続において攻撃防御を行う(公開・対審構造)。また、事実の主張・証明は当事者の責任とされる(弁論主義)。これに対し、非訟事件では、公開・対審構造をとらず(非訟事件手続法第13条)、裁判所が職権で探知することもある(第11条)。

 訴訟事件では、原則として、裁判所の自由裁量は認められないが、非訟事件では、裁判所が後見的な立場から自由に判断することが可能である。

   例えば、成年後見の開始を決定するとき、家庭裁判所は、個々の状況を考慮した上で、成年後見人を職権で選任する。かつては、成年被後見人に配偶者がいるときは配偶者が成年後見人になると規定されていたが、配偶者が適任ではないこともあるため、現行法は、家庭裁判所に裁量権を与えている(民法第843条第4項)。なお、同裁判所が考慮しなければならないことも同時に規定されている。
 


 訴訟事件では、裁判所の判断は判決という形式で下され、不服がある者には控訴および上告が認められる。これに対し、非訟事件では、決定という形式で示され、不服がある者は抗告しうる(第17条、第20条)。


 民事訴訟手続と民事非訟事件手続いは、以上のような違いがあるが、以後の講義では、前者について解説する。