外 国 判 決 の 承 認 ・ 執 行 @


1.判決の執行(基礎知識)

 裁判所が、被告(債務者)に1000万円の支払いを命じる判決を下したとしても、被告がそれに任意に従うとは限らない。この場合、債権者(原告)は、自らの権利を実現するため、国に判決の執行を求めることができる。なお、法治国家において、自力救済(債権者が実力で権利を実現すること)は原則として認められていない 。そのために、判決(請求権の存在や範囲を公証する文書である判決(債務名義〔民事執行法第22条参照〕)の執行を国に申し立て、債務者の意思に反しても、請求権を実現する必要がある。この手続を 強制執行手続 と呼ぶ。


     リストマーク 強制執行手続については こちら

 


2. 外国判決の承認・執行

2.1. 総論

(1) 国家は自らの主権を行使して裁判を行う。主権は、原則として、自国の領域内においてのみ行使されうるものであるから、例えば、A国は自国内でのみ裁判を行うことができ、その判決は自国内でのみ効力を有する。つまり、A国の裁判所の判決がB国内でも効力を有し、B国はA国の裁判所の判決に拘束されるわけではない。もっとも、そうであるとすれば、A国で勝訴判決を得たものの、B国内に居住ないし差し押さえることのできる財産を所有する被告が判決に従わないため、B国で強制執行する必要がある場合(その他のケースについて、こちらを参照)、原告は、B国の裁判所に改めて提訴し、勝訴判決を得なければならなくなる。なお、この場合、B国の裁判所は、A国の裁判所と完全に同じ内容の判決を下すとは限らず、紛争の統一的解決が達成されないおそれがある。


外国判決の執行


 @複数の国の裁判所によって、内容が異なる判決が下されることを防止するため、また、A訴訟経済 (複数の国で裁判を行うことは当事者の経済的負担を増すだけではなく、国の司法行政上の負担を無益に増やすことになりかねない)や、B当事者の権利の効果的な救済 (前掲のケースでB国でも裁判を行わなければならないとすれば、原告の権利実現が遅れる)といった観点から、他国の判決(これを「外国判決」という)を承認し、これを執行する必要性が増大している。その他、外国判決の承認・執行には、C外国の司法判断を尊重し、また、他国の主権(裁判権)行使を尊重するといった重要な意義がある。


(2) 民訴法上、外国判決は、第118条の要件を満たせば、特別の手続を必要とせずに承認されるが(後述2.2.参照)、これを執行するには、国内裁判所の執行判決が必要になる。執行判決訴訟において、国内の裁判所は、外国判決の当否を形式的にのみ審査する(民執法第24条参照)。つまり、外国判決が法令を正しく解釈・適用しているか、手続上の暇疵はないか、また、裁判所判断の妥当かという点については審査されない(詳しくは こちら)。


外国判決の承認・執行


 

2.2. 各論 

2.2.1. 外国判決の承認

 外国判決の承認制度は、各国で統一されていないが、前述したように、我が国では、民訴法第118条の要件が満たされれば、特別の手続を必要とせず、外国判決は承認される(自動承認)。外国判決が承認されれば、判決国における判決の効力が我が国にも及ぶことになる(効力拡張説[1])。

 

 外国判決を承認するための要件は以下の通りである。


@ 外国裁判所の確定判決であること

 「外国」とは、判決確定時において、日本以外の国のことである。我が国によって外交的に承認されているかどうか(すなわち、日本と国交があるかどうか)を問わないと解すべきであろう(有力説)。

 裁判所による子供の親権者や監護権者の決定など、非訟事件の裁判 に関しては、民訴法第118条は直接的に適用されないが、同条第1号および第3号の要件を満たすときは承認される(東京高裁平成5年11月15日判決、判タ835号132頁

 外国判決は、「確定」していなければならない。すなわち、判決国において、通常の不服申立方法が尽き、通常の裁判手続が終了していることを必要とする。

 

A 外国裁判所が管轄権を有すること(民訴法第118条第1号)

 判決を下した外国の裁判所が、適法に管轄権を有するかどうかについては、我が国の国際裁判管轄規定を基準にして決定する(通説・判例)。この点について、最高裁は、民事訴訟法第118条第1項所定の「法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること」とは、「我が国の国際民事訴訟法の原則から見て、当該外国裁判所の属する国がその事件につき国際裁判管轄を有すると積極的に認められることをいうものと解される。そして、どのような場合に判決国が国際裁判管轄を有するかについては、これを直接規定した法令がなく、よるべき条約や明確な国際法上の原則もいまだ確立されていないことからすれば、当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念により、条理に従って決定するのが相当である。具体的には、基本的に我が国の民訴法の定める土地管轄に関する規定に準拠しつつ、個々の事案における具体的事情に即して、当該外国判決を我が国が承認するのが適当か否かという観点から、条理に照らして判決国に国際裁判管轄が存在するか否かを判断すべきものである」とした(最高裁平成10年4月28日判決、民集第52巻第3号853頁)

  リストマーク 外国離婚判決の承認について


 

B 敗訴被告の保護(民訴法第118条第2号)

 訴訟手続の開始において、被告に適切な手続上の保護がなされず、被告が敗訴した場合には、問題の外国判決は承認されない[2]。なお、旧民訴法第200条第2項は、日本人である被告のみを保護していたため、批判されていたが[3]、新法はこの点を改善している。

 118条第2号の「訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達」とは、被告が現実に訴訟手続の開始を了知することができ、かつ、支障なく防御権を行使しうる場合を指す。また、判決国と我が国の間に 送達に関する条約が締結 されているものの、同条約が定める方法によらず、訴状や訴訟書類が送達されたときは、第118条第2号の要件が満たされない。例えば、香港で行われた訴訟の原告から私的に依頼された日本人弁護士が、日本に在住する被告に訴訟書類を直接交付したケースにおいて、最高裁は、第118条第2号の要件が満たされないとし、香港の裁判所の判決の承認を拒んだ(最高裁平成10年4月28日判決、民集第52巻第3号853頁)

 なお、送達条約は、郵便による送達を認めており、日本は、この方法を拒否していない。そのため、外国在住の原告から日本在住の被告に、訴訟書類が直接送られてきた場合について、下級審は、外国裁判所からの正式な呼出し、もしくは命令であることが合理的に判断でき、かつ、翻訳文が添付されており、防御の機会が保障されている場合には、第118条第2号の要件が満たされるとしている(東京地判平成2326日、金商85739頁、東京高判平成9918日、高民集503319頁)。

    リストマーク 送達について


 敗訴被告が前述した要件を満たす呼出しや命令の送達を受けていなかった場合であれ、応訴した場合はよいが(第118条第2号)、この点について、最高裁は「いわゆる応訴管轄が成立するための応訴とは異なり、被告が、防御の機会を与えられ、かつ、裁判所で防御のための方法をとったことを意味し、管轄違いの抗弁を提出したような場合も含まれる」と解している(最高裁平成10年4月28日判決、民集第52巻第3号853頁)



C 我が国の公序良俗に反しないこと(民訴法第118条第3号)

 以下の場合には、外国判決は承認されない。

 a. 判決の内容が実体法上の公序良俗に違反すること(例えば、人身売買に基づく請求権の認容)

 

 リストマーク 懲罰的損害賠償判決と公序違反について [4]

 リストマーク 子の引渡しに関する外国裁判の承認

 リストマーク 代理出産に関する外国裁判の承認

 

 b. 訴訟手続上の公序良俗に違反すること(例えば、被告の防御権、裁判の中立性や公開裁判が保障されていないこと)


  我が国とは異なり、訴訟費用の全額を敗訴当事者に負担させる香港高等法院の決定について、最高裁は「訴訟費用の負担についてどのように定めるかは、各国の法制度の問題であって、実際に生じた費用の範囲内でその負担を定めるのであれば、弁護士費用を含めてその全額をいずれかの一方の当事者に負担させることとしても、民事訴訟法第118条第3号所定の『公の秩序』に反するものではない」と判断している(最高裁平成10年4月28日判決、民集第52巻第3号853頁)


 

D 相互の保証(民訴法第118条第4号)

 我が国と同等の条件で(つまり、民訴法第118各号の要件と重要な点で異ならず)、我が国の判決が外国(判決国)によって承認されることが保証されていることが必要になる。一般に、米国のカリフォルニア州、ニューヨーク州、ネバタ州、ハワイ州の判決は、相互保証があるため、承認されうるが、ベルギーの判決は相互保証がないため、承認されないとされている(東京弁護士会国際取引法部会編『国際訴訟のQA』(商事法務研究会、1996年)149頁以下(江口)参照)。

 なお、大審院は、この要件を、我が国の法律が定める外国判決の承認の要件と「等シキカ又ハ之ヨリ寛大ナル」ことが必要であると解釈していたが(昭和8年12月5日判決)、最高裁は、外国の承認要件が「重要な点で異ならない」ことで十分であるとし、要件を緩和している(第3小法廷昭和58年6月7日判決)。

  リストマーク 外国離婚判決の承認について

 




以下の外国判決を日本の裁判所は承認・執行しうるかどうか答えなさい。


@

裁判管轄の合意で指定された以外の裁判所が下した判決


A 義務履行地以外の裁判所が下した判決

B 訴状が郵便で送達されてきたため、応訴せず、下された判決(欠席判決)

C 懲罰的責任を認める判決

 



[1]      石川明・小島武司編『国際民事訴訟法』(青林書院、1994年)133頁(坂本)参照。

[2]      日本語への翻訳をつけず、訴状を外国より直接郵送して開始された訴訟の判決は、第118条第2号の手続保障違反に当たるとして、これを承認しなかった裁判例がある(東京地裁平成2326日判決、金商85739)。

[3]       石川明・小島武司編『国際民事訴訟法』142頁(坂本)参照。

[4]      石川明・小島武司編『国際民事訴訟法』150頁(坂本)、東京弁護士会国際取引法部会編『国際訴訟のQA』(商事法務研究会、1996年)159頁以下(林)参照。



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