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授業の概要

1.ヨーロッパにおける国際化とEUの様々な側面

 現代社会のキーワードのひとつとして「国際化」が挙げられます。我が国でも「国際化」が進展していますが、ヨーロッパでは、それとは比較にならないほど大規模に発展しています。それは、四方を海に囲まれた我が国とは異なり、ヨーロッパ諸国は国境を接しており、容易に外国に行くことができるといった理由に基づいています。

 例えば、フランス人だからといってフランスで働くとは限らず、隣国のベルギーやドイツに移住して働いたり、毎日、国境を越えて通勤する人も少なくありません。また、失業したら、自国の職業紹介センターではなく、他国の職業紹介センターに行って仕事を探す人もいます。

 大学生であれば、ほとんどの人が留学を経験します。そのため、3ヶ国語以上、話せることが大学生の標準となっています。つまり、2ヶ国語に通ずるバイリンガルは、我が国では珍しい存在ですが、ヨーロッパでは平均以下の語学力しか持っていないことになるため、就職活動もままなりません。また、オランダやデンマークからドイツに留学する学生の中には、祖父母や両親のいずれかがドイツ人であるため、ドイツ人と同じようにドイツ語を話すことができ、大学の成績はドイツ人よりも優秀な人も珍しくありません。

 このように、ヨーロッパでは国境を越えた移動や交流が盛んですが、国境や空港でパスポート検査を受けることはありません。

 その他の例として、ヨーロッパの国々は農産物の価格や生産量を共同で決定したり、日本との貿易に関する規則を統一していること、また、自国の通貨を廃止し、共通の通貨(ユーロ)を導入していることなどが挙げられますが、これらは、EU(European Union、欧州連合)という枠組みの中で行われています。確かに、我が国でも国際化が進展していますが、EU内のように、他国と通貨を統合したり、他国と共同で法律を制定するまでは至っていません。

 EUは第2次世界大戦後に発足した3つの欧州共同体を基礎としています。当初は6ヶ国体制でしたが、2020年4月現在、27の国が加盟するにまで発展し(参照)、多様な政策を実施しています(参照)。その結果、EUは、関税同盟、域内市場、「自由、安全および正義の領域」、経済・通貨同盟といった様々な側面を持ち合わせるようになりました。この授業では、ヨーロッパにおける国際化の実態について触れながら、EUの様々な側面について説明します。


2.EUの目標と欧州統合史

 ところで、① EUは第2次世界大戦後に設立された3つの欧州共同体を基礎としていること、また、② 当初の6ヶ国体制から27ヶ国体制に発展していることは、すでに述べた通りですが、戦後、3つの共同体が6ヶ国によって設立されたのは、なぜでしょうか。それは大戦によってヨーロッパは荒廃し、多くの人々の生命や権利が奪われることになりましたが、戦火が鎮まると、人々の生活を守る上で不可欠な平和の重要性が再認識されることになったためです。特に、1800年代後半から幾度も争ってきたドイツとフランスの仲直りが重要で、それを実現するには、火種となっていた鉄鋼・石炭業を共同で管理する国際期間の必要性が指摘されました。この考えに基づき、1952年7月、ドイツ、フランス、イタリア、ベルギー、オランダ、ルクセルンブルクの6ヶ国で欧州石炭・共同体が設立されました。

 欧州石炭・鉄鋼共同体の成功を受け、1958年1月には、欧州経済共同体(EEC)欧州原子力共同体が設立されることになりましたが、いずれもヨーロッパにおける和平の実現を目的にしています。その他に、ヨーロッパ諸国の経済を立て直し、人々の生活を豊かにすることや、米ソ2大国の影響力がますます強まる中で、ヨーロッパの発言力を維持・強化することも目的としています。

 なお、第2次世界大戦後、米ソ2大勢力に挟まれたヨーロッパは東西に分断され、新たな戦争、つまり、冷戦の舞台となりますが、旧ソ連を中心とした東側の民主化が進んだ結果、東西対立は1989年末に幕を下ろしました。その後、旧ソ連の支配から解放された東ヨーロッパ諸国は、EU加盟を目指すようになりますが、この過程において、EUは東西ヨーロッパの統合や民主主義の普及といった目標・課題を持つようになります。

 授業では、この欧州統合の歴史ないしEUの目的・課題について説明しますが、この点において、EU法は、憲法、民法、刑法といった法律科目とは違い、政治学的な要素を持っていると言うことができます。

 なお、欧州統合の歴史やEUの政策、また、EU加盟国を含むヨーロッパ諸国については「地域研究(欧州)」の授業でも説明します。この科目と「EU法」は関連性が強く、補完し合うため、同時に履修することを推奨します。


3. EUの特殊性(超国家性)

 EUには立法権が与えられており、様々な法律が非常に早いスピードで次々と制定されていきます。また、EUが制定した法は非常に強力で、加盟国がそれに違反する場合には、制裁を科すことも可能です。このような点において、EUは、国連、WTO(世界貿易機関)、WHO(世界保健機関)、NATO(北大西洋条約機構)といった(一般的な)国際機関とは比較にならないほど強力な権限を持ち、特殊であると言えます。
 授業では、このようなEUの特殊性や特徴を他の国際機関と比較しながら説明します。   


4. EU法の制定と効力

 この授業のタイトルである「EU法」には、①加盟国が制定した条約と、②同条約に基づき、EUが制定した法があります。授業では両者について説明しますが、要点は以下の通りです。

 ① EU法はどのようにして制定され、また、執行されるか。 特に、制定過程においては、民主主義原則が維持されていると言えるか。
 
 ② EU法は加盟国においてどのような効力を持つか。特に、EU法と加盟国法の内容が一致しないときは、どちらが優先するか。また、EU法は私人に対しても適用されるか。
 ③ EU法によって権利を侵害された者(例えば、EUがワインの生産量を制限する法を制定したため、仕事をなくした者や、EUによってテロリストに指定され、財産を没収された者)は、どのようにして救済されるか。


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5.EUの新型コロナウィルス感染症対策

 2020年2月以降、ヨーロッパ各国でも新型コロナウィルスの感染が拡大し、大きな社会問題になっています。状況がとりわけ深刻なイタリアやスペイン、そしてフランスでは、すでに、ひと月以上に亘り外出が規制されています。この規制は我が国とは比べようのないほど強力ですが、それは状況が非常に深刻なためです。では、なぜヨーロッパでは、我が国とは比較にならないほど状況が悪化したのでしょうか。それはEUの政策に関連しています。他方、この危機的状況を克服するため、EUはどのようなことができるでしょうか。授業では、この時事的な問題を取り上げながら、EU法について解説します。
 

学期末試験    当初は、学期末の定期試験期間中に筆記試験を実施し、その点数と、授業中に行う小テストの点数を合計し、成績を評価する予定でした。

 しかし、授業がオンライン化されることになりましたので、以下のように変更しました。

  • 成績は、授業中に実施する小テストの結果に基づき判定します。
  • 小テストは、授業中に毎回、実施します。つまり、12回、行います。その内、点数の高い10回分を総合し、成績を評価します。
  • やむを得ない理由により、小テストを受けることができない場合は、「欠席届」を提出してください。提出した学生は、次回の授業が始まる前まで、小テストの答案の提出を認めます。


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