域内市場とは、商品、人、サービスおよび資本が自由に移動しうる空間であるが(詳しくは こちら)、EC条約はその達成を加盟国に義務付けている。つまり、商品や人の移動を妨げてはならないのは、加盟国である。これに対し、私人は、このような義務を課されていない。もっとも、特定の場合には、私人にもこれが義務付けられるとEC裁判所は判断している。例えば、企業や組織がその優位的立場を利用し、自らに有利な雇用契約を締結し、労働者が他の加盟国内で働くことを妨げるようなケースでは、EC法に基づき、そのような行為が禁止される。つまり、EC法は私的自治(例えば、自由な雇用契約の締結)を制限しうる。その理由として、EC裁判所は、そうでなければ、EC法上の基本的自由(商品、人、サービスや資本の移動の自由)が保障されないことを挙げている。
(参照) EC裁判所の Bosman 判決
ところで、国際条約は、一般に、国家や国際機関の権利・義務についてのみ定めており、個人の権利・義務について直接、規定するものではない。しかし、EC条約はこのような一般的な国際条約とは異なることがEC裁判所の判例法を通し、確立している(参照)。
なお、保障されるべき基本的自由と、制限される私的自治ないし私人の権利とを慎重に比較衡量する必要がある。例えば、環境保護団体のデモによって、30時間あまり高速道路が遮断され、商品や人の自由な移動が妨げられるようなケース
において、EC法上の基本的自由は、表現や集会の自由という重要な基本権に優先しない。つまり、デモを行う権利は、EC法上の商品や人の移動の自由によって制限されない(Case
C-112/00, Schmidberger [2003] ECJ I-5659, paras. 51 et seq.)。
私人間における指令の直接的効力については こちら
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