大学の学位の相互承認に関する指令
学問分野を問わず、大学の学位(diplomas)を相互に承認する制度を設けるため、EU理事会は指令(Directive 89/48/EEC, OJ 1989, L 19, p. 16)を制定している。これによれば、学位は、教育期間(少なくとも3年間とする)とレベルに照らし、国内の学位と同等かどうか判断される。なお、教育の内容は問われないが、これは、全加盟国の教育内容は同等であるとの信頼関係に基づいている。
特定の職業に就く条件として、学位の取得が国内法で要求されている場合がある。例えば、ドイツでは、弁護士、会計検査士、税理士、エンジニア、教師といった職業に就くためには、それぞれの分野の学位が必要になるが、このような職業について、指令は、他のEU加盟国の国民に対しても、学位の取得(大学教育期間は3年以上でなければならない)と、出身国で必要とされる全ての職業資格を備えていることを要求しうると定める。なお、教育制度の違いに鑑み、指令は、追加的な教育(3年間の教育課程や適性検査)、また、場合によっては、職業経験を要求することを認める。これに基づき、例えば、ドイツは、弁護士、会計検査士、また、税理士について、適性検査を実施している。
学位が他の加盟国でも承認されるにせよ、他の加盟国は学位取得者に対し、特定の職業行為のみを許可することができる。例えば、イタリアで学位を取得し、水利工事・港湾建築技師の資格を得た者が、スペインで道路・運河・港湾建築技師の資格を申請した場合、スペインは両国の職業の本質的な違いを理由に、特定の労働のみ許可することができる(Case C-330/03, Colegio de Ingenieros de Caminos, Canales y Puertos [2006]
ECR I-801)。
なお、前掲の学位の相互承認に関する指令(Directive 89/48/EEC, OJ 1989, L 19, p. 16)は、新しい指令(Directive 92/51/EEC)によって補充されているが、さらに新しい指令(Directive 2005/36/EC)によって置き換えられることになった(新指令について こちら も参照)。
(参照) |
Your Europe (大学学位の相互承認について)
Directive 89/48/EEC on a general system for the recognition of higher-education diplomas awarded
on completion of professional education and training of at least three years'
duration, OJ 1989, L 19, p. 16
Directive 92/51/EEC on a second general system for the recognition of professional education
and training to supplement Directive 89/48/EEC, OJ 1992, L 209, p. 25
Directive 1999/42/EC establishing a mechanism for the recognition of qualifications in respect
of the professional activities covered by the Directives on liberalisation and
transitional measures and supplementing the general systems for the recognition of qualifications, OJ 1999, L 201, p. 77
Directive 2005/36/EC on the recognition of professional qualifications, OJ 2005, L 255, p.
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ECEVET (The European Credit system for Vocational Education and Training)
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弁護士の開業に関する指令
他のEU加盟国で弁護士資格を取得した者が継続的に業務を行うことができるようにするため、前述した 学位の相互承認に関する指令の他に、弁護士の開業に関する指令(95/5/EC)が制定されている。この指令は、独立して弁護業を営む者だけではなく、その他の者にも適用される。
指令によれば、他の加盟国の弁護士は受入国の所轄官庁に登録しなければならないが、その他の特別な要件を必要とせず、長期的に活動することができる。もっとも、出身国の公用語による肩書きを用いなければならない。また、法廷での活動には、受入国で認可された弁護士の了承を得なければならない(ECJ
1988, 1123 - Gouvernantenklausel)。
これに対し、他の加盟国内で用いられている肩書きの使用を希望する場合には(他の加盟国への完全な統合)、前述した大学学位の相互承認が規定する適性検査を受けることができる。なお、受入国の法律ないしEC法に関する弁護業を3年間行っていることが証明されれば、適性検査は免除されうるが、3年間では不十分な場合には、コースやゼミナールへの出席を課すことができる。
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