Top      News   Profile    Topics    EU Law  Impressum          ゼミのページ



星

 

職 業 資 格 の 相 互 承 認 に 関 す る 指 令
  


 EC法上、EU市民(EU加盟国の国民)には他の加盟国でも自由に働く権利が保障されている(参照)。しかし、自国で取得した職業資格や学校の卒業証明書が他の加盟国で承認されないとすれば、実際に他の加盟国で働くことは困難になる。このような弊害を除去するため、EC条約第47条第1項は、卒業証明、試験の成績や職業資格の相互承認に関する指令の制定をEU理事会に義務付けている(参照)。なお、1993年11月発効のマーストリヒト条約に基づき立法手続は変更されており、現在、指令は、欧州議会とEU理事会によって共同で制定される(共同決定手続)。


 すでに多数の指令が制定されているが、国内法上、大学の学位(diplomas)の取得が必要とされる職種(例えば、教員、弁護士など)については、学位の相互承認に関する指令が制定されている(詳しくは こちら)。

 また、以下の職業に関しては、個別に指令が発せられ、資格の相互承認制度が整備されている。



医者

看護士

歯科医

獣医 

薬剤師

助産婦

建築家

 

     各指令のダウンロードは こちら(欧州委員会の公式サイト)


 なお、上掲の7つの職業資格について別個に設けられた各指令(総数12)は、新しい単一の指令(Directive 2005/36/EC)によって統合されることになった(EC法体系の簡素化)。なお、新しい指令は、上掲の7つの職業以外の職業を対象にした指令(参照)や 大学の学位(diplomas)の相互承認に関する指令をも取り込んでいる。新法の趣旨・目的に照らし、加盟国は2007年10月20日までに国内法を整備しなければならない。

 新指令は、ある加盟国ですでに開業しているEU市民が一時的に他の加盟国でもサービスの提供する場合と、他の加盟国内に事務所等を設置して長期的に経済活動を行う場合(開業)とを区別して規定している。



◎ 一時的にサービスを提供する場合

 EU市民が本国での職業名を用い、一時的にサービスを提供する場合、他の加盟国で資格を承認してもらう必要はない。これに対し、サービスを提供するため、加盟国に赴くときは、その加盟国の資格取得要件を満たさなければならないが、このような要件が規定されていないときは、2年間の職業経験があることを証明する必要がある

 受入国は、サービス提供者が受入国内で経済活動を開始する前に届けを出し、毎年、その更新を義務付けることができる。また、所轄官庁への登録を義務付けることができる。

 サービス提供者が本国の職業名や職業資格を用いて他の加盟国で役務を提供するとき、その加盟国は、サービス提供者に対し、消費者に必要な情報を開示するよう義務付けることができる。

 サービス受入国は、自国の消費者による苦情処理や紛争の解決が適切に図られるよう、考慮しなければならない。また、提供者が開業している国(開業国ないし本国)に必要な情報の提示を求めることができる。



◎ 他の加盟国で開業する場合

 他の加盟国での開業 に関し、資格の承認方法は以下の3通りに分類される。


@

資格の自動的承認

 従来、個別の指令によって相互承認制度が調整されてきた職業資格(参照)は、これまで通り、自動的に承認される(新指令第21条以下参照)。なお、資格の等価性を保障するため、指令は、資格の取得に必要な最低要件を定めている。例えば、医者の場合は、少なくとも以下の要件を満たす必要がある(第24条)。

大学で医学の基礎教育を受けるには、学位(diploma)か大学への入学を認める試験に合格していなければならない。大学での基礎教育には、少なくとも6年間ないし5500時間の理論・実務教育が含まれる。また、基礎教育は、医学の基礎となる学問や学術的メソッドなどを修得させるものとする。



A

職業経験の承認

 工業、手工業および商取引の分野では、他の分野の職業資格 の相互承認に先駆け、多くの指令が制定されている。これらの指令は、すでに、Directive 1999/42/EC によって統合されているが、加盟国間における職業資格の承認や職業訓練の内容に関する調整が困難であるため、出身国で一定の期間、実際に、かつ、適性に業務を行うことが承認の要件とされている。

 新指令(Directive 2005/36/EC)もこれに倣っているが、多くの職業を3つに分類し、承認方法を3つに削減している(第16条以下)。例えば、手工業者(大工や機械工)の場合は、自国内での職業経験が以下の要件を満たしていれば、他の加盟国でも働くことができる(第17条)。


自営業者 継続して6年

事前に3年間の職業訓練を受けているときは、継続して3年

事前に2年間の職業訓練を受けているときは、継続して2年

非自営業者として、5年の経験があるときは継続して3年


管理職にある
非自営業者
継続して5年と事前の3年間におよぶ職業訓練

 


B

その他

 上掲の2つのケースに該当しないか、該当するものの、資格承認の要件を満たさない者について、指令は一般的な規定を設けているが、それによれば、資格取得国と受入国(開業地国)との教育に本質的な違いがある場合にのみ、受入国はさらなる職業教育を求めることができ、原則として、資格は承認される(第10条以下参照)。



(参照)

新指令 Directive 2005/36/EC on the recognition of professional qualifications, OJ 2005, L 255, 22

欧州委員会の公式サイト(新指令について)






学位 大学の学位の相互承認に関する指令

 学問分野を問わず、大学の学位(diplomas)を相互に承認する制度を設けるため、EU理事会は指令(Directive 89/48/EEC, OJ 1989, L 19, p. 16)を制定している。これによれば、学位は、教育期間(少なくとも3年間とする)とレベルに照らし、国内の学位と同等かどうか判断される。なお、教育の内容は問われないが、これは、全加盟国の教育内容は同等であるとの信頼関係に基づいている。

 特定の職業に就く条件として、学位の取得が国内法で要求されている場合がある。例えば、ドイツでは、弁護士、会計検査士、税理士、エンジニア、教師といった職業に就くためには、それぞれの分野の学位が必要になるが、このような職業について、指令は、他のEU加盟国の国民に対しても、学位の取得(大学教育期間は3年以上でなければならない)と、出身国で必要とされる全ての職業資格を備えていることを要求しうると定める。なお、教育制度の違いに鑑み、指令は、追加的な教育(3年間の教育課程や適性検査)、また、場合によっては、職業経験を要求することを認める。これに基づき、例えば、ドイツは、弁護士、会計検査士、また、税理士について、適性検査を実施している。

 学位が他の加盟国でも承認されるにせよ、他の加盟国は学位取得者に対し、特定の職業行為のみを許可することができる。例えば、イタリアで学位を取得し、水利工事・港湾建築技師の資格を得た者が、スペインで道路・運河・港湾建築技師の資格を申請した場合、スペインは両国の職業の本質的な違いを理由に、特定の労働のみ許可することができる(Case C-330/03, Colegio de Ingenieros de Caminos, Canales y Puertos [2006] ECR I-801)

 なお、前掲の学位の相互承認に関する指令(Directive 89/48/EEC, OJ 1989, L 19, p. 16)は、新しい指令(Directive 92/51/EEC)によって補充されているが、さらに新しい指令(Directive 2005/36/EC)によって置き換えられることになった(新指令について こちら も参照)。



(参照) Your Europe (大学学位の相互承認について)

Directive 89/48/EEC on a general system for the recognition of higher-education diplomas awarded on completion of professional education and training of at least three years' duration, OJ 1989, L 19, p. 16

Directive 92/51/EEC on a second general system for the recognition of professional education and training to supplement Directive 89/48/EEC, OJ 1992, L 209, p. 25

Directive 1999/42/EC establishing a mechanism for the recognition of qualifications in respect of the professional activities covered by the Directives on liberalisation and transitional measures and supplementing the general systems for the recognition of qualifications, OJ 1999, L 201, p. 77

Directive 2005/36/EC on the recognition of professional qualifications, OJ 2005, L 255, p. 22




ECEVET
The European Credit system for Vocational Education and Training)




弁護士 弁護士の開業に関する指令

 他のEU加盟国で弁護士資格を取得した者が継続的に業務を行うことができるようにするため、前述した 学位の相互承認に関する指令の他に、弁護士の開業に関する指令(95/5/EC)が制定されている。この指令は、独立して弁護業を営む者だけではなく、その他の者にも適用される。

 指令によれば、他の加盟国の弁護士は受入国の所轄官庁に登録しなければならないが、その他の特別な要件を必要とせず、長期的に活動することができる。もっとも、出身国の公用語による肩書きを用いなければならない。また、法廷での活動には、受入国で認可された弁護士の了承を得なければならない(ECJ 1988,  1123 - Gouvernantenklausel)。

 これに対し、他の加盟国内で用いられている肩書きの使用を希望する場合には(他の加盟国への完全な統合)、前述した大学学位の相互承認が規定する適性検査を受けることができる。なお、受入国の法律ないしEC法に関する弁護業を3年間行っていることが証明されれば、適性検査は免除されうるが、3年間では不十分な場合には、コースやゼミナールへの出席を課すことができる。



(参照) Directive 98/5/EC of 16 February 1998 to facilitate practice of the profession of lawyer on a permanent basis in a Member State other than that in which the qualification was obtained, OJ 1998,  L 77

欧州委員会の公式サイト(弁護士の開業について)


弁護士資格(学位)の相互承認に関する指令については こちら

弁護士のサービス提供に関する指令については こちら








(参照) 欧州委員会の公式サイト (職業資格の相互承認について)

EURES - The European Job Mobility Portal

National Academic Recognition Information Centres (NARICs)

Your Europe



「EU法講義ノート」のトップページに戻る