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トルコ国旗   トルコ刑法改正案 離婚の処罰化を検討


 かねてより、人権保護・司法制度の改善は、トルコの重要な政策課題の一つにあたる。2002年に Erdogan 政権が発足して以来、トルコ政府の取り組みは強化され、評価されつつあり、トルコがEUの人権保護水準に達しうることがEU加盟国にも広く認識されるようになっている(参照 @ A。もっとも、欧州委員会による報告書(トルコとEU加盟交渉を開始すべきかどうかに関する報告書)の発表を約1か月後に控えた2004年9月、離婚に対する刑罰(6か月以上、2年以下の懲役)の再導入が新たにクローズアップされ、イスラム法復活の動きがEU市民の懐疑心をあおっている (参照 ドイツ国内の政治家の批判)。


 78年前に制定されたトルコ刑法は、離婚を刑罰の対象にしていたが、同刑罰は、8年前、憲法裁判所によって廃止された。しかし、保守派や信仰に厚い人々の支持を得るため参照、トルコ与党 AKP は、刑法改正法案を 2004年9月第3週、国会に提出する準備を進めていた。Erdogan 首相によれば、この刑罰の導入は女性の保護につがなるとされているが、女性団体からの抵抗も強い。また、9月9日、Verheugen 欧州委員(EU拡大担当)は、この法改正を「歴史的な冗談」とみなし、アンカラ政府に再考を促した。



 トルコ刑法内の離婚に関する規定は、男女を平等に扱っていないことから、8年前、憲法裁判所によって廃止されたが、一連の刑法改正(15〜18歳の未婚の青少年間の性行為に対する刑罰、不貞を犯した女性の殺害に対する刑罰や、司法当局の許可なく女性の処女性を検査することに対する刑罰、また、拷問に対する刑の引き上げなど)について審議する過程において、離婚刑の再導入は、2004年8月、突然、検討されるようになったとされる。なお、この8年間、刑罰の再導入を求める見解は存在しなかったとされる。1999年の調査によれば、再導入に賛成した男性は16%、また、女性は18%に過ぎないとされる参照。また、野党は再導入に批判的であるが、与党 AKP の3分の1強を占める保守派によって強く支持されている。

 (参照) Die Presse   Der Standard FAZ

 


 EUの外圧を受け、トルコ政府は、9月14日、離婚に対する刑罰再導入法案の国会提出を見送ったが、その後、同法案の審議を10月1日以降に延期するとした。与党 AKP は、不貞を可罰の対象にすることで、離婚を罰することを検討しているとされる参照。離婚の罰則化は、ヨーロッパの人権保護ないし法治国家原則の水準に達していないため、法案が可決されるならば、コペンハーゲン基準 が遵守されたとはみなされないと欧州委員会は考えている。また、トルコが同基準を満たしているかどうかについて検討する欧州委員会の報告書が公表された後に、刑罰が再導入されることをけん制するため、離婚の処罰化を完全に見送った上で、刑法改正手続を早急に終了するよう要請している参照。トルコと加盟交渉を開始するかどうかに関する判断を先送りすべきとする見解も主張されている(ドイツ出身の Brok 欧州議員〔CDU〕)参照

 9月17日、トルコの Erdogan 首相は、EUの批判を内政干渉として批判している。また、自国のEU加盟は、何が何でも必要であるわけではないと述べたとされる参照。これに対し、Verheugen 欧州委員は、「EUやその水準に合わせようとしているのは、トルコであり、EUではない(EUが強要しているのではない)」として、アンカラの批判を退けた。なお、現EU加盟国は、離婚を処罰の対象にしていない(参照 @ A。トルコの刑法改正は、EU加盟交渉の開始に関する判断に大きな影響を及ぼすことをEUは明らかにしており、9月17日、Verheugen 委員は、刑法改正を迅速に行うよう要請している。また、刑法改正の動きによって、欧州委員会の報告書の発表が遅れることはないとされる参照。仮に、交渉の開始が決定されても、その後に懸案の刑法改正が行われるならば、トルコのEU加盟は困難になるものと解される。

写真

Erdogan トルコ首相(左)と
Verheugen 欧州委員


写真提供 Audiovisual Library European Commission



 New 離婚の処罰化 廃案へ


 2004年9月23日、トルコの Erdogan 首相は、ブリュッセルで Verheugen 欧州委員と会談した。その後、Verheugen 欧州委員は、トルコが離婚の処罰化を見送るにいたった経緯について触れ、もはや問題は残っていないと述べた。一時、Erdogan 首相は、EU側の要請を内政干渉として批判していたが、最終的には、EU加盟という目標を優先させたものと解される。トルコの40年にわたる取り組みを無にしてはならないとする意見はトルコ国内でも聞かれていた
参照。刑法改正に関する国会審議は、この日曜日より再開することになっており、欧州委員会の報告書が発表される10月6日までには、離婚の処罰化を完全に見送った上で、改正作業は終了するとみられている。


  (参照) FAZ
(2004年9月23日記)



New
 2004年12月4日、トルコ国会は、刑事法改正法案の一部を可決した。新法は2005年4月1日に発効する。

   リストマーク 詳しくは こちら


(2004年12月6日)

New

 当初、改正刑事法は2005年4月1日に発効する予定であったが、1〜2ヶ月延期されることになった。トルコ政府は、技術的な理由によるものと発表している(参照)。


(2005年4月2日)


New

 2005年5月27日、トルコ国会は、再度、修正が施された改正刑事法案を採択した。発効には、さらに大統領の承認が必要になる(New 新法は6月1日に発効した)

 当初、改正刑事法は4月1日に発効される予定であったが、人権侵害を理由に批判されていた。そのため、修正が行われ、新法は、メディアに対する刑罰規定を削除している。また、違法なコーラン・コース(認可されずに実施される宗教教育)に関する刑罰も軽減されている(参照)。


(2005年6月3日)




(参考) Der Standard
Die Welt@ 
A 
FAZ
Die Presse




(2004年9月7日記 2005年6月3日更新)