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EU理事会     独・仏に対し、具体的な財政赤字削減策の実施を命令せず


写真提供
Audiovisual Library European Commission
ユーロ貯金箱を抱く少女

 

 独・仏両国の財政赤字は、来年もGDPの3%を上回る見通しになり、マーストリヒト条約の議定書で定められたユーロ安定化基準の遵守は事実上、不可能になったっため、欧州委員会は、徹底した財政均衡策を両国に命じるよう、EU理事会に提案した(EC条約第104条第9項参照)。

フランスに対する欧州委員会の要請 (2003年10月21日)  参考
ドイツに対する欧州委員会の要請 (2003年11月18日)
その他の委員会の決定・提案



財政均衡措置の命令手続(EC条約第104条第9項)                     

命令手続
 


 これを受け、EU理事会(蔵相理事会[ECOFIN])は、2003年11月25日、ブリュッセルで会合を開き、欧州委員会提案について審議したが、委員会案の採択に必要な特定多数の賛成が得られず、独・仏に具体的な財政均衡化策の実施が命じられることにはならなかった。もっとも、来年、両国は「過剰な」財政赤字の削減に努め、遅くとも2005年には、ユーロ安定化基準を満たしていなければならないことに変わりはない。

2003年11月25日のEU理事会の決議 (pdf.file)


 独仏政府は、経済的に賢明な判断が下されたとして理事会の決定を歓迎しているが、委員会はEC裁判所への提訴も辞さない構えを見せている。



 [追記]

 その後、欧州委員会は、理事会決定の有効性を争い、EC裁判所に提訴していたが、2004年7月13日、同裁判所は、委員会の見解を容れ、理事会決定を無効と宣言した。これにより、現在、有効に 存続しているのは、同年11月24日の委員会提案(勧告、EC条約第104条第7項)となるが、理事会はこれを否決しているため、委員会は、新しい提案を作成しなければならない。そのため、委員会は、判決の内容をよく検討した上で、理事会や欧州中央銀行と協議を行うとしている。

(2004年7月13日記)


欧州委員会 具体策示さず

 
 欧州理事会の要請(2004年6月)を受け、現在、欧州委員会は、安定・成長協定の見直しを行っているが、2004年9月3日、同委員会は、改正案の精神にのっとり、独仏両国に対する取締手続を再開することを明らかにした。もっとも具体策は示されていない。

 欧州委員会作成の改正案によれば、加盟国の財政状況の監視が強化される一方で、中期的な財政均衡の概念が緩やかに解釈される。また、個々の加盟国の経済状況を総合的に判断し、マーストリヒト条約が定める財政赤字の上限(3%)を超えることも認めるとしている。Prodi 委員長は、安定・成長協定は、ユーロの安定性のみならず、経済成長をも考慮しながら適用されるべきであるとし、この改正案を支持している。



追記
 
 2004年9月10〜11日、EU加盟国の蔵相は、オランダにおいて会合を開いたが、11日、 Mr. Euro (ユーロ導入国蔵相の常任議長)に内定している Jean-Claude Juncker 氏(ルクセンブルク首相)は、2005年上半期に、安定・成長協定の見直しについて合意をとりまとめる意向を示した
参照



(参照) 欧州委員会の公式サイト

"Zukunft der Defizitverfahren gegen Deutschland und Frankreich offen", FAZ v. 5. September 2004, S. 3.

(2004年9月6日記)






 また、委員会案に賛成したベルギー、ギリシャ、スペイン、オランダ、オーストリア、フィンランドの6カ国や欧州中央銀行も、ユーロ安定化基準の形骸化を憂慮し、大国の姿勢を批判している。なお、ユーロを導入していないイギリス、デンマーク、スウェーデンには投票権は与えられていなかった。

 委員会がEC裁判所への提訴を検討していることについて、ドイツのシュレーダー(Schröder)首相は、この問題は、むしろ政治的に解決されるべきであると述べている。また、EU理事会(蔵相理事会)ではドイツと対立姿勢を見せたオーストリアのシュッセル(Schüssel)首相も、独首相との会見に際し、通貨の安定化だけではなく、経済発展にも資する基準が不可欠であり、従来の安定化基準には見直しが必要であると述べている。

独・墺首脳の見解